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思春期の子どもを持つあなたに 関谷秀子

医療・健康・介護のコラム

第8部 ADHD(注意欠陥・多動性障害)(下) 祖父の威光の陰で、「いつか自分に返って来るかもしれない」と恐れと罪悪感を抱く

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 それまで大きな問題もなく勉強や運動に取り組んできたのに、祖父の敷地内に引っ越ししたことをきっかけに、世代間の境界が混乱し、A君の家族の秩序は壊れ始めました。

 年齢相応の我慢や努力をせず、幼児的な欲求を通すばかりになってしまっていることが、学校でも自分勝手な行動を繰り返し、やがて不登校につながってきたことは理解できました。

 不注意や多動性、衝動性とされた症状も、環境の変化の影響が大きいだろうと私は考えました。そこで、今の混乱した家族関係を整理し、A君に対して年齢相応の対応をするための親ガイダンスを提案し、両親もそれを希望しました。

祖父を使って両親との約束を破ること

 親ガイダンスでは、祖父への対応が重要なポイントになりました。

 A君は「虎の威を借る狐」状態であり、祖父の権威を借りて父と母を言いなりにさせて幼児的な満足を充足させていました。わがままで我慢のきかない、自分勝手な幼児のようになっています。このままでは、年齢相応の努力や我慢を学ぶことができず、友達とも対等な関係が築けなくなるはずです。

 そして私は、「祖父を使って両親との約束を破ることは、A君の心の中に満足感とともに恐れや罪悪感も生み出すことになります」と伝えました。ここを解決しないと、将来、A君自身が困難を背負い込むことになることも話しました。

 父親は、「祖父として、Aのこともかわいがってくれるし、我々も経済的に世話になっています。だから、今まで文句を言ったことはありませんでした。でも、考えてみれば、Aも両親と祖父とをどう位置づけたらいいのか、混乱していたと思います」と話しました。

 母は、「私が子どもの頃から、自分の父はいつも正しかった。だから、私自身も何でも相談してきました。今では、Aは自分のことを『プチボス』と呼ぶようになって、父親よりも偉そうにしていました。一方で、夫は私の父を立ててくれていましたので、この家族は私の父が中心でいいと思ってきましたが、Aにとってそれではいけないことが理解できました」と話し出しました。

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shisyunki-prof200

せきや・ひでこ
精神科医、子どものこころ専門医。法政大学現代福祉学部教授。初台クリニック(東京・渋谷区)医師。前関東中央病院精神科部長。

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1件 のコメント

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人間関係の玉突き事故の連鎖と特殊な認知

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

仕事場でも、サッカーチームでも、人間関係こそが半分以上のウエイトなんじゃないかといつも思います。 友人関係と指揮系統に年功序列や物理的、あるいは...

仕事場でも、サッカーチームでも、人間関係こそが半分以上のウエイトなんじゃないかといつも思います。
友人関係と指揮系統に年功序列や物理的、あるいは心理的利害関係が絡み合います。

先日、Jリーグのパワハラ疑惑のニュースもありましたが、それがパワーを伴った指導なのか、パワーハラスメントなのか、そんなのは特に専門的な業界であるほどにカオスです。

今回の内容で一番大事なのは薬が出てこないことかもしれません。
そして、信頼とか人間関係とかによって、精神的な症状や物理的な問題が発生するという認識とそれに対する対応です。
それに対して、直接だけでなく、関係者への指導など間接的な対応の重要性もあります。

一人の人間の持つ複数の役割というのはわかっていてさえ混乱することもあります。
一方で、落ち着いて、修正をかけていけば、自然と落ち着くこともあるでしょう。

目に見えるものも、見えないものも、世の中には様々なものがありますが、普通というのは共通幻想であって、普通なものなどどこにもないという割り切りや少々いびつでも普通の範囲内に収めてしまうタフさがこれからの心の世紀において大事なのかもしれないですね。

ADHD、注意欠陥多動症の項目ですが、行動や社会形成の優先順序が一般的でないだけで、子供はその時の生存競争の中で必死です。
病名が先走って、本人や家族を不幸にするのは良くないですから、境界領域や亜型の問題も含めてまた取り扱っていただければと思います。

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