心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」
医療・健康・介護のコラム
「私を捨てていくつもり?」 母の抵抗で結婚は破談…35歳女性を苦しめる「共依存」の呪縛
「先生、『共依存』ってよくないんですよね?」
V子さんが、心療内科の外来で問いかけてきた。
「家族問題のグループで、そう言われたの?」
「そうなんですよ。お母さんとの関係が苦しくて仕方がないので、皆さんの前でその話をしたら、『それは共依存だから、何とかしなきゃ!』って言われちゃいました……」
V子さんは、35歳の女性。外来での診断名は「抑うつ状態」だ。3年前から通っており、時々、家族問題のミーティングにも顔を出している。

イラスト:奥山裕美
父と兄が交通事故で他界 その後は…
彼女の家族は、もともと仲の良い一家だった。両親と兄とV子さんの4人暮らし。父親も兄も穏やかな人柄で、彼女の面倒をよく見てくれた。小さい頃は本当に幸せだったと、今でも彼女はよく思い出す。
その幸せを奪ったのは交通事故だった。
高齢者の危険運転で、父親と兄の命があっという間に奪われたのだ。彼女と母親は奇跡的に助かったが、その後の生活は悲惨なものになった。
母親は仕事に出るようになり、家の中のことはV子さんが全部こなした。もともと体の弱かった母親は、無理をして体を壊し、寝込むことが多くなって彼女を心配させた。それでも、かけがいのない2人だけの家族。そう思ってV子さんは頑張ってきた。
母親が「気持ちが悪い」と言えば、布団を敷いて早く寝かせ、「休みたい」と言えば、仕事先におわびの電話を入れた。お金がないからと、毎日、倹約を心がけ、大学に行くお金はなく、進学をあきらめて就職した。それも仕方がないと思ってきた。「お母さんに無理をさせたくない」「これ以上、家族を失いたくない」。その一心だったのだ。
「ここまで私一人で育ててやったのに!」
母親との関係が悪化したのは3年前、V子さんが職場の上司と親しくなり、彼との結婚話を打ち明けてからだった。
最初は祝福してくれたものの、彼が実家の商売を継ぐため、結婚したら遠方に引っ越すつもりであることを話したら、急に態度が変わった。
「私を捨てていくつもり? ここまで私一人で育ててやったのに!」
と母親は、怒りに震える声で叫んだ。驚いた彼女は、母親をなだめようといろいろ話したけれど、うまくいかなかった。
それから親の体調が悪くなった。V子さんは看病に追われるようになって、会社を辞めた。結局、彼との仲も疎遠になり、結婚話も消えたのだった。
彼女は次第にイライラが募り、眠りが浅くなった。気分も落ち込んで、心療内科の外来に通うようになったのである。
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