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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

学校時代のケアと成人社会のギャップ

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学校時代のケアと成人社会のギャップ

 前回みたように、日本の教育現場では、児童生徒における視覚系を含む様々な心身の機能障害に対する理解は、かなり進んできているようにみえます。

 障害というと、ある程度重症で継続的なものを思い浮かべますが、そこまではいかない事情による学校生活での不都合にも目が向けられるようになってきました。

 このように、学校時代は教員や周囲の児童生徒たちの理解が深まり、それなりに手厚くケアが行われるようになりつつあることは、大変喜ばしいことです。

 問題は、子供が成長して大人の社会に入った時、同等以上の理解と対応が得られるのかどうかということです。

 ものを見続けていると目の奥のほうに、痛みとも違う異様な感覚に襲われ、集中できなくなるという18歳の男性が受診されました。どの眼科に行っても眼球は正常で、頭部のMRI(磁気共鳴画像)も撮影していましたが、異常はみられなかったとのことでした。

 小学高学年の時、学校生活で落ち着きがないことから、担任と校医のすすめで小児神経の専門家を受診したところ、発達障害の疑いはあるが軽いものであり、薬物治療などは不要とのことで、その後は受診していないとのことです。

 学校では担任が変わっても、前の担任から事情が伝達されているのか、彼の行動や気分が周囲の人たちと異なっていても、許容され、温かく見守られていたようでした。しかし、高校に入ると、そこまでの配慮やケアはなく、「集中できない」と自覚しても相談する相手がいないという事態になり、「心療眼科」という言葉をインターネットで知って、私の外来を受診したのでした。

 彼の症状は、確かに眼球などの病気から来ているのではなく、精神神経医学的立場から評価し直すべきだと考えて、発達障害の専門家のいる機関を探しました。しかし、首都圏でも、もはや小児ではないこの年齢の発達障害を専門的に診ているところは少なく、探せても予約が半年待ちなど、狭き門でした。

 ただ、仮にそこで、発達障害であるとか、そのグレーゾーンにある、と診断されたとしても、彼が持っているいわく言い難い目の症状や、集中力の低下が即座に治るわけではありません。彼は、間もなく高校を卒業し、就職をしたいと考えていますが、その道は本当に開かれているのでしょうか。

 島国で単一民族的社会だから、などといわれることがありますが、どちらかといえば、多様性にあまり寛容ではない日本の大人の社会現場で、彼らが学校時代に受けたのと同じように理解され、許容され、ケアされるか甚だ疑問に思います。まして、グレーゾーンの方の場合は、健常者とみなされることで、より不利な扱いになってしまうかもしれません。

 成人の発達障害を診てくれる専門医師が少ないのと同様、社会の受け皿も十分整っていないのが実情です。

 発達障害だけの問題ではありません。いかなる障害も、診断能力が上がるにつれて、グレーゾーンの対象者は必ず増加します。それに応じた、社会としての取り組みがなければ、彼らは実力が発揮できないばかりか、社会の一員になるのに相当苦労するでしょう。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」(青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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