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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

教室で児童生徒のわずかな変化を見つけるために

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教室で児童生徒のわずかな変化を見つけるために

 長男が子供の時、家庭での会話や生活は普通にできるのに、学校では言葉を発することができない「場面 緘黙(かんもく) 」という症状があったことは、本人が成人してから自身でインターネットで調べて初めて知ったのでした。親である私たちは、おとなしくて繊細な子だとは思っていましたが、そこまで極端な症状を持っているとは気付きませんでした。

 学校では、自分から手を挙げて発言することがなくとも、テストをすればそれなりの成績をとるので、教員も気付かなかったのでしょう。

 英国スコットランドのグラスゴー大学の私の研究留学先に家族を呼びよせたのは、彼が10歳の時です。地元の小学校に入って何か月かして、家内が担任に呼ばれました。長男が学校で全く話さないので、少々心配しているというのです。しかし、家内も私も、まだ英語に慣れていないからだろう、くらいにしか思っていませんでした。

 今考えてみると、15人足らずのそのクラスにはいろいろな国籍の子供がおり、必ずしも皆が達者な英語を話すとは限りませんでした。でも、数か月もすれば子供たちは、生活上困らない程度の英語は理解するようになります。実際、家の周りで仲の良い近所の子供たちと平気で遊んでいました。

 授業では、それぞれの児童に別々の課題が与えられ、教員はそれを見回りながらアドバイスをするという教育法で、その中で共通の問題点があると、日本の授業のように座学スタイルを一時的にとるというやり方でした。だから一人一人の特長や欠点がよく見えるのでしょう。

 昔と変わらない座学スタイルばかりの教育では、一人ひとりの個性や心身の様々な問題を見つけにくいのではないでしょうか。

 学習障害、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、視聴覚障害、肢体不自由、性同一性障害など、種々の問題を有する児童・生徒に、教育機関がどう対応し、どう支援していったらよいかのプログラムが文部科学省で練られたり、民間支援施設ができたりというニュースをよく聞くようになりました。

 私たちが初等教育を受けた60年以上前といえば、知的障害児のための特別な学級が設置される程度でしたから、それに比べると長足の進歩です。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーが徐々に増加していることをみても、行き届き始めていることが実感されます。

 しかし、「おかしい」と発見できるのは、児童や生徒に毎日直接接している教員でしょう。

 子供が自分から症状を訴えるのは難しいものです。

 例えば、私の領域で言えば、わずかな見え方の異常を教室や屋外授業で気付くことができれば、病気の早期発見につながる可能性があります。また、両眼視機能(両目でものを見ることで初めて距離感や立体感がつかめる)の障害や、読字障害は見逃されやすいものですが、教員に知識さえあれば、発見できる可能性が十分あります。

 そのためには、私たちがスコットランドで経験したような一人一人に注目したきめ細かな学校教育が大事なのではないでしょうか。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」(青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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