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森本昌宏「痛みの医学事典」

コラム

痛みを抑えるのに注射?…ご安心を、そんなに痛くありません

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 「ペイン」は痛み、「クリニック」は診療所。したがって、「ペインクリニック」とは痛みの診療所である。誰にとっても不快で、厄介な「痛み」を対象として、その診断と治療を行っている専門外来である。

 このペインクリニックを担当しているのは、主に麻酔科医である。麻酔科は、手術中や術後の痛みを軽減するために生まれた科目だ。その後、必然的に、外来でも痛みの治療を手掛けるようになり、医学の専門分野として発展してきたのである。かくいう私も、麻酔科医のはしくれではある。

ペインクリニックの立役者は元プロレスラー

 ペインクリニックは、コロンビア大学のルーベンスタイン医師が、さまざまな局所麻酔薬を痛みの治療に応用したことに始まる。医療部門として確立した立役者は、ワシントン大学のジョン・J・ボニカ教授である。

 ボニカ教授は、苦学生時代にプロレスラーのアルバイトをしていたことから、あちこちの古傷の痛みに悩まされていた。そこで、自身の体を実験台にして、痛みに関連する部位(トリガー・ポイントと呼ばれる圧痛点であり、東洋医学でのツボに一致することが多い)に局所注射を行ってみたところ、難治性の痛みが劇的に軽くなることを発見した。この経験を元に、未開拓であった痛みの治療に、局所麻酔で痛みをなくす「神経ブロック療法」を用いることを提唱したのである。神経ブロック療法は、手術時に行ってきた伝達麻酔( 腕神経叢(わんしんけいそう) ブロックや 大腿(だいたい) 神経ブロックなど)の応用によって、痛みの伝達機構を一時的あるいは長期にわたって遮断する方法である。その業績は、60年以上も前に発行された「ザ・マネージメント・オブ・ペイン」にまとめられている。発行当時、ボニカ教授はまだ36歳。第2版は本文のみで実に2120ページもある大著で、いまだ翻訳書は出版されていない。

 わが国では、1963年、東京大学付属病院において「麻酔科外来」として産声を上げた。この際にも「ザ・マネージメント・オブ・ペイン」がバイブルとなった。続いて、66年、私の恩師である兵頭正義教授が大阪医科大学に専門外来を開設し、それまでの神経ブロック療法に加え、東洋医学的なアプローチ( 鍼灸(しんきゅう) 治療や漢方薬の投与)の併用を提唱した。兵頭教授は71年の著書「ペインクリニックの実際」(南江堂)の序文で、「とにかくペインクリニックの技術を導入すると、従来もてあましていた 疼痛(とうつう) 疾患に対し、常識を破る驚異的な治療効果をあげることも可能である」と記している。

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morimoto-masahiro

森本 昌宏(もりもと・まさひろ)

 大阪なんばクリニック本部長・痛みの治療センター長。
 1989年、大阪医科大学大学院修了。医学博士。同大学講師などを経て、2010年、近畿大学医学部麻酔科教授。19年4月から現職。日本ペインクリニック学会専門医、名誉会員。日本東洋医学会指導医。著書に『ペインクリニックと東洋医学』『痛いところに手が届く本』ほか多数。現在、大阪市北区の祐斎堂森本クリニックでも診療中。

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1件 のコメント

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keep you burning?

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

僕らのアラフォー世代では、痛みのツボとか聞くと、思わず「あたたた・・・」と叫び始めてしまいそうですが、こういう局所麻酔の意義は今後大きくなるので...

僕らのアラフォー世代では、痛みのツボとか聞くと、思わず「あたたた・・・」と叫び始めてしまいそうですが、こういう局所麻酔の意義は今後大きくなるのではないかと思います。
理由は薬剤は全身投与の副作用の方が総じて大きいからです。
また、全身投与の方が総投与量も大きく、依存症などとの兼ね合いも無視できません。
その分手間や法規制などもありますが、日本の医療で改善していく部分の一つではないかと思います。

IVR=画像下治療=局所治療および局所麻酔の観点で、麻酔科と放射線科あるいは整形外科などが交錯する分野ではありますが、地域や組織ごとに柔軟な取り組みができてくるといいですね。
専門医制度も揺れていますが、元専門医も実行者になるのであれば、女性医師比率の大きい麻酔科がシェアと発言権をとるのでしょうね。

個人的には出産育児で常勤ができない医師の為にも、ワークショップや専門医機構お墨付きの別の認定医機構が立ち上がる方が多くの患者さんの為になると思います。
勿論、目先の局所の痛み止めだけでいいか否かの判断の為の、各科医師や画像診断医との連携も含めて、柔軟なガイドラインやシステムが立ち上がってくるといいと思います。

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