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感染症対策の強化…生きた病原体で検査

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感染症対策の強化…生きた病原体で検査

 2020年東京五輪・パラリンピックに向け、政府は、海外から持ち込まれる恐れがある感染症への対策を強化する。厚生労働省と国立感染症研究所(感染研)は、エボラ出血熱などの生きた病原体を初めて輸入し、検査能力を高める。今月に入り、帰国した女性がエボラに感染した疑いがある事例も発生した。検査の結果、感染はしていなかったが、万一の事態に備える必要がある。(利根川昌紀)

  感染の疑い

 厚労省は4日、コンゴ民主共和国から7月31日に帰国した70歳代の女性が、エボラに感染した疑いがあると発表した。コンゴでは18年8月以降、エボラが流行し、1700人を超える人が亡くなっている。

 女性は現地に滞在中、エボラ患者との接触はなかったが、流行地域を訪れていた。1日2回体温を測って健康状態を報告する「健康監視」の対象となり、3日に40度近い熱を出した。感染研村山庁舎(東京都武蔵村山市)で感染の有無を検査したところ陰性だった。

 女性のような患者が出た場合、「特定感染症指定医療機関」や「第1種感染症指定医療機関」に入院し、感染研村山庁舎で血液などを検査して感染の有無を調べることになっている。

  回復判断

 この検査は人工的に合成した病原体の一部を使用するなどして行えば可能だ。だが、実際に感染が確認された場合、治療によって患者が回復しているかどうかを診断することになり、その検査では生きた病原体が必要になる。患者の血液と反応させ、患者の体内で免疫が働いているかどうかを確かめる。退院の可否を判断するのに役立つ。

 感染研ウイルス第1部長の西條政幸さんは「生きた病原体がなければできない検査だ。新しい検査法をテストするのにも不可欠で、検査の精度やスピードを上げることにつながる」と説明する。

 生きた病原体を使った検査を行えるようにするため、致死率が高く、感染症法で「1類」に指定されているエボラのほか、クリミア・コンゴ出血熱、南米出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱の病原体が輸入される。病原体は検査を行う準備をした上で、感染研村山庁舎にある「BSL4施設」に冷凍保管される。

  体制の充実を

 エボラは感染後、2~21日(通常は7~10日)で発熱や頭痛、 倦怠けんたい 感などの症状が出る。下痢や 嘔吐おうと を繰り返して脱水状態となり、肝臓や腎臓などの臓器がダメージを受けて出血も起こる。

 根本的な治療法は確立していないため、対症療法として、入院して十分な点滴治療を行って回復を待つ。

 国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)国際感染症センター長の大曲貴夫さんは「有効な治療薬は現時点でない。ただ、脱水状態を改善させることで快方に向かう可能性が高まり、死亡リスクを下げることにつながる」と話す。

 エボラは空気感染はせず、症状のない患者に接触してもうつることはない。検査体制をさらに整えておくことが求められている。

  BSL4施設  致死率が高く、有効な治療法もないエボラ出血熱の病原体などを扱う実験施設。内部は気圧が低く保たれるなどし、病原体が外に漏れない構造になっている。感染研の施設は1981年に完成し、2015年にBSL4施設の指定を受けた。今後、本格稼働すれば国内初の施設となる。海外には欧米など20か国以上に約60か所ある。

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