いつか赤ちゃんに会いたいあなたへ
医療・健康・介護のコラム
気が進まぬ精子提供による不妊治療を繰り返し、心身の健康を害した妻
「家族の出来事すべてがウソだった」 事実を知ってショック
ここで視点を変えて、生まれた子供の立場で考えてみましょう。
私はFineの活動を通して、AIDで生まれたという方たちにも話を聞いています。それまでは想像もつかなかった「出自を知る権利」の重要さに、その時、初めて気が付いたのです。自分と父親の血がつながっていない、しかも、その父親がどこの誰かわからないということは、決して一般的なことではありません。それを思春期に突然知ってしまったら、どれだけショックなことでしょう。
当事者の方によると「これまでの家族の出来事すべてがウソだった」と感じ、「自分の半分がぽっかりなくなってしまったような気持ち」になるとのこと。それは多感な時期でなくても、どれだけつらいことでしょうか。この話を当事者の方から直接聞いた時、私は初めて、自分の親を知る権利、誰しもが当たり前のように「権利であること」すら意識もしないままに持っているこの権利の重要さについて、深く考えさせられました。
「知らぬが仏」という言葉もあるように、一生知らずに幸せに過ごせたら、それもありなのかもしれません。しかし、AIDで生まれた子供の中には「幼いころから父親に対して何らかの違和感を覚えていた」という人も少なくありません。子供の福祉(幸せ)を考えた場合、どうしても、この「出自を知る権利」をおざなりにすることはできないと思います。このように「生まれた子供の権利」を守るためには、やはり何らかの法整備が必要になるところなのですが、この生殖医療に関する法整備は10数年間ずっと 膠着 状態のままです。これは大きな課題であると言わざるを得ません。
子供に出自を知る権利を 5年前に法整備への要望書提出
もう5年前になりますが、私が代表を務めるNPO法人Fineも自民党政務調査会「生殖補助医療に関するプロジェクトチーム」への意見書・要望書を6団体(※)共同で提出しました。(2014年4月11日)
http://j-fine.jp/activity/act/yobo-tokutei1404.pdf (提出した要望書)
https://ameblo.jp/npofine/entry-11821699203.html (提出の様子)
不妊や不妊治療、またこのAIDに関しては様々な団体があり、それぞれの活動の方向性によって法整備に対する主張の違いはあります。しかしながら、6団体の要望書の中で唯一、一致した点がありました。それは「生まれた子供の出自を知る権利を認めてほしい」ということでした。
しかし、残念ながらこのプロジェクトチームは、その後、動きが止まってしまっており、様々な事情によって日本でスムーズにこの治療を受けることが難しい状態です。そのため精子提供だけでなく、卵子提供を求めて海外まで治療に行かざるを得ない不妊当事者が後を絶ちません。法整備は喫緊の課題であるといえるでしょう。
最後に、不妊治療の本当の主役、つまり当事者は、それを受ける夫婦よりも、それによって生まれてくる子供だと、私は個人的には強く思っています。生まれてくる子供が幸せに一生を終えてこそ、その不妊治療は初めて「成功だった」と言えるのではないでしょうか。子どもの幸せなくして、いったい何のための治療なのか、と思うのです。
どうか一日も早く日本でも法制化が進み、一人でも多くの子供が望まれて生まれ、愛されて育ちますように。不妊治療がそのための素晴らしい手段となりますように、と、願ってやみません。(松本亜樹子 NPO法人Fine=ファイン=理事長)
※要望書提出団体一覧(50音順)
NPO法人OD-NET(特定非営利活動法人 卵子提供登録支援団体)
NPO法人Fine ~現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会~
要望書
すまいる親の会(AIDの選択に悩んでいる・AIDで親になった人の自助グループ)
要望書
第三者の関わる生殖技術について考える会
意見書
DOG(DI Offspring Group)非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループ
フィンレージの会(不妊に悩む人のための自助グループ)
要望書
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