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Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」

医療・健康・介護のコラム

睡眠薬と寝酒 どっちが安心?

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 こんにちは。精神科医で睡眠専門医の三島和夫です。睡眠と健康に関する皆さんからのご質問に科学的見地からビシバシお答えします。

 睡眠薬に関するご質問をよくいただきます。意識調査でも、「薬剤によって違いはあるのか?」「長期間服用しているが大丈夫か?」「睡眠薬でボケると雑誌に書いてあって心配」などなど、一般の方が、睡眠薬に対して実に多くの心配事を抱えていることが明らかになっています。そこで今回は、睡眠薬の種類と作用の違いについて解説します。

服用を怖がられるクスリ

 「睡眠薬を服用していると依存症にならないですか?」

 「睡眠薬よりも寝酒の方が安心なのでは?」

 「市販の睡眠薬は病院の睡眠薬より安全。だって処方箋無しで買えるクスリでしょ」

 日本の成人の約20人に1人が、50歳代以降に限れば6~7人に1人が、病院などで処方された睡眠薬を服用しています。睡眠薬は最も使用頻度の高いクスリの一つですが、服用を怖がる方が多いクスリでもあります。

 現在、日本で処方されている睡眠薬の作用機序は大きく三つに分けられます。

 一つ目は脳内のGABA‐A(ギャバ・エー)受容体に作用するタイプです。GABAは神経の働きを抑制する神経伝達物質で、GABA‐A受容体はGABAが結合して作用発揮する部位です。服用した睡眠薬は腸管から吸収され、血液に乗って脳内に到達し、GABA‐A受容体に結合することで脳を覚醒させる神経の働きを抑え、眠気をもたらします。

 このタイプの睡眠薬は、日本国内で処方される睡眠薬の8割以上を占めます。1967年、今から50年以上前にはじめて登場して以降、これまでに10種類以上発売され、処方する医師にとってもっともなじみのある睡眠薬です。一方で、GABA‐A受容体に作用する睡眠薬の一部は、服用しているうちに効果が弱くなる(耐性)、中止した際に不眠や 動悸(どうき) 、発汗などの離脱症状が出現するなどの身体依存(依存症の一種)が生じることがあります。不必要に長期間服用しない、医師の指示なしに急に中断しないなどの注意が必要です。

寝酒にも依存リスクが

 睡眠薬に抵抗があるため、寝酒に頼る人もいます。寝酒なら安心なのでしょうか?

 お酒を飲むと眠くなりますが、実はアルコールもGABA‐A受容体に結合します。つまり、お酒と睡眠薬は同じメカニズムで眠気をもたらします。しかも、お酒の場合には、「耐性で効果が弱くなるにつれ、以前よりも量が増えていきやすい」「休肝日は、離脱症状で眠りにくくなる」など、身体依存が生じます。つまり寝酒は、依存リスクのある睡眠薬を服用しているのと同じなのです。「寝酒の方が安心」というのは全くの誤解です。

体内時計の時刻を合わせる薬

 二つ目のタイプは、脳内のメラトニン受容体に作用するタイプです。メラトニンは、主に夜に分泌され、「今から夜が始まる」という体内時計(生体リズム)の情報を体中に伝えるホルモンです。このタイプの睡眠薬は、メラトニン受容体に結合することで、体内時計の時刻を合わせるのと同時に、眠気をもたらします。2010年に発売され、まだ1種類しかありません。

 海外では、メラトニンは、眠りを改善する「健康食品」としてドラッグストアなどで販売されています。メラトニン受容体に作用するタイプの睡眠薬は、メラトニンよりも受容体に数倍結合しやすく、眠気をもたらす効果を強く引き出すことで不眠症を改善します。依存性が少ない、認知機能に悪影響を与えにくいなど、安全性が高いのが長所である反面、効果はマイルドで、比較的軽症の不眠症の方に用いられます。

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三島和夫(みしま・かずお)

秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授

 1987年、秋田大学医学部卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本生物学的精神医学会理事、日本学術会議連携会員。著書に「不眠症治療のパラダイムシフト」(編著、医薬ジャーナル社)、「やってはいけない眠り方」(青春新書プレイブックス)、「8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識」(共著、日経BP社)などがある。

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