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産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」

医療・健康・介護のコラム

過去のいじめ体験が隠れていた「スマイル仮面症候群」(下)

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過去と他人は変えられない、自分と未来は変えられる

節子さん: わかってくれて、ありがとう。でも「スマイル仮面」で溶け込んだふりだけでは、前に進めませんよねぇ。

私   : (力を込めて)そう、そう、そうなんだ。気づいてくれたんだね。名言に「過去と他人は変えられない、自分と未来は変えられる」があります。シカトは過去の経験。変えられないですね。変えられるのは、自分だけ。変えられれば、未来は変わっていく。現在と将来が大事だ。

節子さん: そうか、そうなんだ。変えられるのは自分だけか。シカトにこだわっていたら、何も変わらないか。

自己客観視して、次に対処へ

節子さん: その場に溶け込んでいるふりをするのではなく、本当に溶け込むには、どうしたらいいんでしょうか。

私   : (力を込めて)カウンセリングで自分を振り返り、向き合い、自分を客観的に見ることができました。自己客観視ができましたよ。よく頑張った。そこから次に進めます。

節子さん: 苦しかったよ。しんどかった。

私   : 溶け込むためには、まず、笑顔の防衛をゆるめることです。少しずつ、「素の感情」を出したらどうかな。

節子さん: 自分の感情を出すんですか。でも、また、気に入られずにシカトされたら、つらいよ。

私   : (力を入れて)カウンセリングで自分がわかったから大丈夫、大丈夫。もうシカトはない。ないよ。過敏にならないで。自分を適度に出していけばよいのです。

節子さん: 出しすぎたから、シカトされた面もある。私も高校時代に比べたら大人になったし。先生がサポートしてくれるから、安心かな。

私   : そう、そう。少しずつ出していくのよ。

係長との葛藤を中心に

私   : 上司の係長さんとうまくいかないのですね?

節子さん: そうです。でも、最近は、以前ほどではないですよ。 先生、私、わかったんです。係長とシカトした仲間が似ているんです。言い方や態度が。

私   : そうか、そうなのか。

過去と現在の経験がつながるのかも

私   : 似ているには、2つあります。普段の感覚でそう思う場合と、精神分析学で言う「無意識(自分ではわからない深層心理)の世界」です。無意識の世界で、係長とシカト仲間が置き換えられている可能性があります。(じっと考えています)

節子さん: 先生、シカトの経験、つらさが話せたから、主任のことも、あまり気にならなくなったよ。

私   : カタルシスしたから。頭や気持ちの整理ができたからね。

過去と現在は違うと理解、5回目の面談

節子さん: 先生、あれから係長をよく観察したら、シカト仲間との違いに気づきました。性格もタイプも違う。高校時代の“シカトトラウマ”が (よみがえ) ったから、今回、不安定になって、混乱しました。冷静になれば、それなりにやっていけます。

私   : 良かった、良かったね。

節子さん: 楽になったよ。先生、ありがとう。

「スマイル仮面症候群」は軽症が多い

 節子さんのケースは、初めはそれほど問題の根が深いと考えませんでしたが、カウンセリングの過程で、節子さんがシカト経験を吐き出したことによって、トラウマ(心の傷)が『スマイル仮面症候群』の要因になっていたのがわかったケースです。重症と分析しました。

 一方、多くのケースや私が観察可能な健常者を見ていますと、『スマイル仮面症候群』は、軽症が多いようです。「スマイルで防衛する」「スマイルで欠点をカバーする」のも、その人なりの、一つの処世術と考えられます。ただ、その場合、どこかに、「自分を出せる場所がある、人がいる」のが大切です。皆さんの職場でも、私の調査では、「スマイル仮面症候群」は5人に1人はいますよ。スマイルを上手に使い分けてくださいね。

 最後に今回のまとめ・本音トークを図の「マコトの一言」で締めくくります。

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natsume-prof

夏目誠(なつめ・まこと)
 精神科医、大阪樟蔭女子大名誉教授。長年にわたって企業の産業医として従業員の健康相談や復職支援に取り組み、メンタルヘルスの向上に取り組んでいる。日本産業ストレス学会前理事長。著書に「中高年に効く! メンタル防衛術」「『診断書』を読み解く力をつけろ」「『スマイル仮面』症候群」など。新著は企業の人事や産業医向けの「職場不適応のサイン」。ブログ「ストレス点数の夏目」はこちら

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1件 のコメント

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無責任な他人の評価の持つ社会性と付き合う

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

知人友人であれ、上司や同僚であれ、客観的な評価とは別に、好き嫌いやしがらみが絡み合いますね。 言い換えれば、完全に客観的な評価などありませんし、...

知人友人であれ、上司や同僚であれ、客観的な評価とは別に、好き嫌いやしがらみが絡み合いますね。
言い換えれば、完全に客観的な評価などありませんし、客観的な評価を集団で操作することなど造作でもない事です。

昨今、医師をはじめとして、現代の社会常識とかけ離れた職場問題も取りざたされていますが、その半分以上はそういった人間的問題です。
抜群の能力があっても、それを発揮するための日常のこまごまとしたことを押さえられると難しい部分はあります。
一方で、それが度を過ぎるようであれば、まだましな組織や地域に人は流れます。

もっとドライに突き放して考えれば、職場のトラブルや顧客との衝突も給与のうちというのが社会人ではないかと思います。
スマイル仮面による下手の対応もいいですが、シカトにはシカトもいいです。
シカトに気付かないふりをすればいい。
一人だと寂しいという生物のある面での弱さ、孤独だとみじめだという根拠のない理屈とどこかで対峙することです。
勇気はいりますが、慣れれば平気です。

理不尽に見合うだけの得るものがなければ、誰も、時間、エネルギー、お金を使い続けないでしょう。
限られた人生で幸せになる、平穏に暮らすというのはそれ相応に工夫が必要ですので、不採算なものにいつまでも付き合えませんよね?
働き方改革もどういう方向に進むかわかりませんが、それなりに評価や業績の分かち合いがましな企業に人は流れていくのではないでしょうか?

とはいっても、転職のタイミングもまた難しいですが、心の中に割り切る気持ちを持つだけでもだいぶ変わるとは思います。
純粋な気持ちだけで生きられたら気楽なんですけどね。

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