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産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」

コラム

過去のいじめ体験が隠れていた「スマイル仮面症候群」(下)

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 江上節子さん(仮称)は24歳のメーカー営業部員です。仕事のミスで上司や同僚とうまくいかなくなり、職場のストレスチェックで「高ストレス状態」と判断され、産業医面談に来ました。初回面談の時に「ほかにも悩みがある」とだけ言って、口を濁していましたが、2回目の面談では、それを話題にしました。

高校時代にいじめを経験していた

私   : 確か悩みは別にあると言ってましたね。

節子さん: 言いましたっけ?

  (10分くらい、考えています)

節子さん: 言うべきか、言わないほうが良いか悩みましたが、もう、これ以上、抑えているのも苦しいのでお話します。

  (また、10分くらい沈黙、表情が硬くなっていきます)

節子さん: 先生、私、高校の時に、シカト(無視)されたことがあるんです。

私   : シカト……。

節子さん: それまでは私が、4人のグループを仕切っていました。でも、それに反発する子がいて。2人が急に私をシカトしたんです。

私   : それで……。

節子さん: 1人は私と仲が良かったのですが、他の2人は、いま思えば、面白くなかったんでしょう。私がでしゃばりすぎたのかも。それでなくても成績もトップクラスだったし。いまなら、わかります。

(一気に吐きだすように話し続ける)

私   : 自分を出したらシカトか。

私   : つらいよね。

節子さん: 先生、先生……、シカトされた……。

私   : そうなんだ。

節子さん: 思い出したくない。

    (15分くらい沈黙。体が震えている)

私   : 裏切られた?

節子さん: ミジメ。食事もひとり、みんなひとり、ひとり、ひとり……。

    (震えが強くなる。呼吸が乱れ、速い)

私   : しんどいね、今日のカウンセリングは終わりにしましょう。

節子さん: もう少し、気持ちが静まるまで待って。

    (15分ぐらい、静かな時を過ごす。震えは減っていく)

節子さん: すいません、先生、また、お話ししますから。

私   : そうしましょう。

過去のつらい感情を吐き出す、3回目の面談

私   : この1週間、どうでしたか。

節子さん: 前回、帰るときに足が硬直して、体が震え、いつもの倍の時間がかかって、帰りました。でも、ちょっと、楽になった。言えないことが言えたから……。

私   : 言えないことを吐きだしていく。それを専門的にはカタルシス、つらい感情の発散と言います。感情が発散できたよね。

節子さん: シカトの続きですが、家に帰っても、誰にも言えない。特に、親には言えなかった。

私   : 親に言えないの?

節子さん: 親を心配させたくないから。(考えています)私は、親からほめられてきた子です。それなのに、シカトされたなんて、言えるはずがない。悔しい、恥ずかしくて、ミジメ、言えないよね。

親の表情を読んできた

私   : 優等生なんだ。

節子さん: そう。成績も良かった、学級委員もやったし、クラブでも活躍した。親からほめられたよ。お母さんは得意げだった。

私   : 親の顔色を読むんだね。

節子さん: 読みますね。親にほめられたいもん……。

私   : 表情を読み取るのですね。では、次回、来てください。

節子さん: はい、まだまだ話したいから。

シカトがつらかったから、笑顔で防衛、4回目の面談

私   : この1週間はどうでしたか。

節子さん: シカトされた悲しい感情を吐き出したから、先生、私、楽になった。

私   : 良かった。

節子さん: そこは、 (うれ) しい。

私   : スマイルが多いのは、シカト経験があるから?

節子さん: そうです。シカトされた経験があるからです。つらい、悲しい顔や行動を見せたくないから、笑顔で防衛をしているんです。(考えながら)スッピン顔を見せない。

私   : そうなんだ。

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夏目誠(なつめ・まこと)
 精神科医、大阪樟蔭女子大名誉教授。長年にわたって企業の産業医として従業員の健康相談や復職支援に取り組み、メンタルヘルスの向上に取り組んでいる。日本産業ストレス学会前理事長。著書に「中高年に効く! メンタル防衛術」「『診断書』を読み解く力をつけろ」「『スマイル仮面』症候群」など。ブログ「ストレス点数の夏目」はこちら

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1件 のコメント

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無責任な他人の評価の持つ社会性と付き合う

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

知人友人であれ、上司や同僚であれ、客観的な評価とは別に、好き嫌いやしがらみが絡み合いますね。 言い換えれば、完全に客観的な評価などありませんし、...

知人友人であれ、上司や同僚であれ、客観的な評価とは別に、好き嫌いやしがらみが絡み合いますね。
言い換えれば、完全に客観的な評価などありませんし、客観的な評価を集団で操作することなど造作でもない事です。

昨今、医師をはじめとして、現代の社会常識とかけ離れた職場問題も取りざたされていますが、その半分以上はそういった人間的問題です。
抜群の能力があっても、それを発揮するための日常のこまごまとしたことを押さえられると難しい部分はあります。
一方で、それが度を過ぎるようであれば、まだましな組織や地域に人は流れます。

もっとドライに突き放して考えれば、職場のトラブルや顧客との衝突も給与のうちというのが社会人ではないかと思います。
スマイル仮面による下手の対応もいいですが、シカトにはシカトもいいです。
シカトに気付かないふりをすればいい。
一人だと寂しいという生物のある面での弱さ、孤独だとみじめだという根拠のない理屈とどこかで対峙することです。
勇気はいりますが、慣れれば平気です。

理不尽に見合うだけの得るものがなければ、誰も、時間、エネルギー、お金を使い続けないでしょう。
限られた人生で幸せになる、平穏に暮らすというのはそれ相応に工夫が必要ですので、不採算なものにいつまでも付き合えませんよね?
働き方改革もどういう方向に進むかわかりませんが、それなりに評価や業績の分かち合いがましな企業に人は流れていくのではないでしょうか?

とはいっても、転職のタイミングもまた難しいですが、心の中に割り切る気持ちを持つだけでもだいぶ変わるとは思います。
純粋な気持ちだけで生きられたら気楽なんですけどね。

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