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スポーツDr.大関のケガを減らして笑顔を増やす

コラム

高校野球の投手起用論争 「スポーツにケガはつきもの」でいいのか?

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個人の適切な投球数を決めるのは難しいが……

 現在、議論になっている投球数についてですが、日本臨床スポーツ医学会による青少年の野球障害に対する提言では、「1日当たりの全力投球数を小学生は50球以内、中学生は70球以内、高校生は100球以内にすべき」と定めています。

 ここで難しいのは、成長の度合いは人によって大きく異なる、という点です。

 中学生で1日100球を投げ続けても問題ない選手もいれば、1日60球で障害が出てしまう選手もいます。体の構造や成長・発達の度合い、体の使い方やコンディション、投球フォームが異なるからです。

 しかし、個別選手ごとに「何球までなら大丈夫」だと判断するのは難しいため、目安となるガイドラインはあった方がいいのです。

高校野球の投手起用論争 「スポーツにケガはつきもの」でいいのか?

 米国の大リーグ(MLB)の「Pitch Smart」というサイトでは、年齢別の投球数のガイドラインを発信し、啓発を行っています。ガイドライン策定には医師などの専門家も当然入っていますが、発信者がMLBである点は特筆すべきことです。

 日本の野球界にはプロとアマがそれぞれの組織を持ち、さらに高野連、中体連、全日本軟式野球連盟などと枝が分かれています。サッカー界のように日本サッカー協会(JFA)の下に組織がまとまっているわけではないため、一元化したルール作りが難しい側面がありますが、プロ野球界がMLBのような啓発をすれば、学生野球の世界でも広く受け入れられるはずです。

 一方で、「ケガはスポーツ選手の宿命」という意見もあります。また、投球数を定めることは、数多くの選手を抱えるチームとそうでないチームとの不平等さがはっきりするとの指摘もあります。ファウルで粘る打者の是非などで悩ましい場面もあるはずです。

 だからといって、成長期の選手の将来がかかる話です。過度な負担がかかる状況を見過ごしていいものではありません。

 そもそも、「スポーツ」は何のためにやっているのでしょう。

 英語の「disport:港を離れる」に由来するスポーツは、ラテン語の「deportare:日常から離れた気晴らし」に源流があり、「遊戯」「楽しむ」「遊ぶ」ものとして、明治時代に欧米から日本に入ってきました。競い合いがあるスポーツに「勝利」を求めることは必然ですが、「心身の鍛練」「人間としての成長」なども大切な目的です。学生にとって、「スポーツは何のためにやるのか」という視点からの議論も必要だと思います。

 それでは、冒頭で紹介したV君のその後の経過です。

 上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎との診断から、損傷した肘に、膝から採取した骨軟骨を移しかえる手術を行いました。肘の曲げ伸ばしに、わずかな制限は残りましたが、術後、半年の時点で痛みが出ることなく、投球ができています。骨軟骨を採取した膝にも痛みは出ていません。

 スポーツにおいて、偶発的なケガはもちろん、肩、肘、腰、足などへの負担による故障の発生をゼロにすることは難しく、「スポーツにケガはつきもの」との認識は誰にもあると思います。

 ただ、中学生や高校生が使いすぎで身体を壊した結果、手術に至るようなケースが多発したとしても、「スポーツにケガはつきもの」で終わらせていいものでしょうか。仮に最善の治療や手術を受けても、復帰まではできないケースも少なくありません。

 スポーツを愛する人は、「ケガはつきものだから」で終わらせない努力をしていくべきだと思います。(大関信武 整形外科医)

【スポーツ医学検定のご案内】

 スポーツに関わる人に正しい知識を広め、不意のけがや故障を減らすことを目的とした「スポーツ医学検定」を実施しています。スポーツ選手だけでなく、指導者や保護者の方も受けてみませんか(誰でも受検できます)。

 2019年12月8日に開催する第6回スポーツ医学検定の申し込みはホームページで開始しています。

 本文のイラストや写真の一部は、「スポーツ医学検定公式テキスト」(東洋館出版社)より引用しています。

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Ozeki-7-pro

大関信武(おおぜき のぶたけ)

整形外科医・博士(医学)
一般社団法人日本スポーツ医学検定機構代表理事

1976年大阪府生まれ、兵庫県立川西緑台高校卒業。
2002年滋賀医科大学を卒業。2014年横浜市立大学大学院修了。横浜市立大学付属病院、横浜南共済病院、関東学院大学ラグビー部チームドクター、英国アバディーン大学研究員などを経て、2015年より東京医科歯科大学再生医療研究センター所属。現在、東京医科歯科大学付属病院スポーツ医学診療センター、八王子スポーツ整形外科などで診療。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。野球、空手、ラグビーなどを通じて、アキレス腱断裂、野球肘、肩関節脱臼、足関節靱帯損傷、骨折(鼻骨、手首、下腿)など自身が豊富なケガの経験を持つ。スポーツのケガを減らしたいとの思いで、2015年12月一般社団法人日本スポーツ医学検定機構を設立し、「 スポーツ医学検定 」を開催している。

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4件 のコメント

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令和時代の育成年代の指導と競技ルール改定

寺田次郎 フメイヨークリニック院長予定

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日本整形外科スポーツ医学会学術集会の現場指導の問題のセッションで、「今の子供は昔の子供と違って、家の中での生活の時間が大きく、外で遊ぶ時間が減っていることも勘案して、指導や競技ルールを考えていくこと」をコメントしました。

山口さんの空手ブログにもありますが、競技以前の基礎の体力や協調運動などの欠損を放置すると、目先の勝負には勝てても、20歳を過ぎるころに修正不能な課題として突き付けられますので、練習の中に入れるべきです。
女子サッカーのX脚からの靭帯損傷はずっと言われてきたことですし、筋トレやレクリエーションは長い目で見てマイナスではありません。
都市部の異常な気温を考えれば、熱中症による判断力低下のための重症の回避のために、サッカーのハーフタイムは、さらにもう半分に割ってもいいでしょう。
ウォーターブレイクが相当していますが、もっと選手を守る方向に変えていいはずです。
それが戦術変更の手段に使われることで、いくつかの試合の結果は変わるかもしれませんが、たかが育成年代の結果より、選手が学んで、怪我なく競技を続けられることは種々のスポンサー企業や用具の企業にも良い事です。
すぐに致命傷な大怪我を起こすスポーツなんか普通の父母は勧めません。
そのために、グラウンドや物的資源人的資源はみんなで考えていけばいいでしょう。

顔が綺麗で足の速い選手、大きい選手、そんな選手のショーアップばかりではなく、足りないものを補うために工夫する選手にも機会があって、アマチュアも含めたスポーツ=知の総合格闘技の市場やファンは増えていくんじゃないかと思います。
もっと多くの人が愛し参加するスポーツや武道のために多様性や特に育成年代でのマイルドな亜型を考えていく必要があります。
スポーツの一つの目的として肉体の限界に挑むことがありますが、それ以上に、スポーツを通して学ぶことを表に出す必要があります。

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スポーツと医学の高度融合が期待される未来

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

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日本整形外科学会スポーツ医学会学術集会に来ています。
ラグビー代表のセッションでエディ監督時代のトレーニングの成果の解釈の質問を入れながら、世界のトップレベルでは、体力や精神力だけじゃなくて、技術、戦術、心理、社会形成、医学などが高度に融合して共有されていないといけないと理解しました。

精神科、児童心理との融合セッションでは、育成年代の選手やコーチの心身のケース紹介もあり、自身の指導時のトラブルも含めて考えさせられました。
多くの指導者は元プロや元セミプロなわけで、そもそも、普通の子供ばかりの集団とは心構えや生活が違いますから、余計にギャップが大きくなってしまいます。
おそらく、そういう問題を上手に処理するシステムがまだまだ不十分なんですね。

一方で、競技の評価と同じく、不十分という評価も基準点の問題で、あまりにも高度で多様なものをいきなり求めるとコスト構造や既得権益と過度に衝突します。
そういう中で、どういうシステム整備や意識改革をすれば、スポーツ社会は前向きに拡張していけるか、というのは一つのテーマなのかもしれません。

驚異的なセンスやタフネス、あるいは運を持った選手だけが大怪我を追わずにプロとして栄光を掴む、というのは過去の日本での事実で成功体験なわけですが、どういう風に変えていくのか?

最近また20歳前のサッカー選手の海外移籍のニュースも目立ちます。
軽やかなステップや足の速さでは勝てないです。
でも、50m走に例えて言えば、間違った方向に走らせたり、最初に転ばせてしまえば、僕の方が速いわけです。
集団での追い込み方は年季がいります。

もちろん、プロの枠は狭く、商業的にもベテランの枠はもっと狭いですが、そういうことも含めて一緒に考えていく文化ができれば、逆にコストや中長期的な健康のために目先の小さな勝負を捨てるということも普通になっていくのかもしれません。

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岡本哲

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弁護士の感覚だと未成年者保護の観点から現状はめちゃくちゃなように思われます。けが及びその重大性に関する未成年者・保護者へのインフォームドコンセントはないでしょう。

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