僕、認知症です~丹野智文45歳のノート
医療・健康・介護のコラム
大学で「認知症」を隠して講演したら…
偶然の再会、その場で講演の約束
半年ほど前、講演で東京に行った時のことです。新宿の街を歩いていたら、女性に呼び止められました。仙台で1度だけお会いしたことがある拓殖大の長尾素子教授でした。私が認知症とともに生きていくために、日々の生活や活動の中でどんな工夫をしているのかについて、聞き取り調査にやってきた研究チームのメンバーだったのです。
物忘れは認知症の代表的な症状ですが、私は特に人の顔や名前を忘れやすいのです。申し訳ないことに、長尾先生のことも記憶から抜け落ちていたものの、先生は偶然の再会をとても喜んでくれて、一緒にお昼を食べることになりました。
食事をしながら車のセールスマンだった時の経験を話したら、「それ、ゼミの学生たちにも聞かせてもらえませんか」と頼まれました。長尾ゼミは「異文化コミュニケーション」がテーマで、私のように障害を持つ人のコミュニケーションは格好の題材だし、商学部と政経学部の学生が集まってるので、営業マン時代のお客さんや同僚とのコミュニケーションの話が将来的にも役に立つのでは……というのです。
「日時などは、また後で」なんて言っていたら、講演を引き受けたことも忘れてしまいます。すぐに手帳を開くと、5月下旬に他の講演で東京に来る予定が入っていたので、その翌日のゼミで話をすることをその場で決めました。
「営業の話」と予告
学生には私が認知症だということは言わず、「自動車のトップセールスマンが、実践的なビジネスコミュニケーションを教えてくれます」と説明してもらうことにしました。以前にも宮城県内の高校で、一部の先生を除いて認知症だということを知らせずに講演したことがあるのですが、みんな全く気づいていなかったようで、途中で私が認知症だと明かすと生徒と先生たちがどよめきました。今度は大学生ですから、どんな反応があるかとわくわくしました。
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