心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」
医療・健康・介護のコラム
嫁いびりが酷かった義母が他界 後を追って首をつろうとした54歳夫に、妻が放った言葉は…
「母はいつも、私を心配してくれました」
久しぶりに奥さんと外来を訪れたU治さんは、すっかり恐縮していた。
「先生にまでご心配をおかけして、すみません。死ぬこともできないなんて、本当にダメな人間ですよね」
私はうなずきながら、こう答えた。
「そうお思いになるのは当然でしょうね。でも、もう一度、お母さんの身になって考えてみましょう。お母さんは、あなたが後を追ってくれて、本当にうれしいでしょうか? あなたがお母さんのことを心配するのと同じように、お母さんもあなたのことを心から心配していたと思います。お母さんの本当の願いは、あなたが元気で生きていってくれることだと思うのですが、どうでしょう?」
U治さんは、しばらく黙って考え込んだ。
「母はいつも、私のことを心配してくれていました。そんな母が亡くなって、私は心の支えを失いました。『母を一人で死なせたくない』。そう思っていました。でも、先生のおっしゃった通りかもしれません……。母は『私と一緒に死ぬんじゃなくて、がんばって生きてちょうだい』って言うつもりで、私を生かしてくれたのかもしれませんね」
U治さんは少し涙ぐみながら、そう話した。
妻の思わぬ「告白」に目を丸く…
その後の診察では、彼の表情も少し落ち着いてきていた。
「最近は薬のおかげでよく眠れるようになりました。最後まで生きようとしていた母のためにも、まだ死ねないなぁ、と思えるようになったんです」
横から、奥さんがホッとした口調で口をはさんだ。
「言っちゃぁなんですが、大変なお 義母 さんでしたよ。ずっと、この人にベッタリで。私なんか『息子の女中』扱いで、『嫁いびり』もひどかった。どんだけ恨んだかしれません。この人も、私のことが好きで結婚相手に選んでくれたのだと思っていたら、『実は、お母さんが気に入ったから』だって言うんです。嫁さん候補を次々に連れてきて、母親が『うん』と言うまで面接を続けたなんて、ホント、人をバカにしてますよね。私は心の中で、いつも『バカ親子』って呼んでましたよ」
U治さんは目を丸くして、「そうなの?」と尋ねた。奥さんは笑いながら、「今だから話せるけどね」と続けた。
「だから、お義母さんのことはずっと恨みに思ってました。この人が必死になって看病するのも、イヤな気分でした。でも、ある時ふと、『この人は、優しすぎるんだ』と思ったんです。私が病気になった時も、やっぱり一生懸命看病してくれた。不器用な手つきでおかゆを作って、『大丈夫?』って心配してくれた。会社のことだって、ミスをした部下をかばって自分が悪者になったから、責任を取らされるハメになった。誰に対しても優しすぎる人なんですよ。それでも、お義母さんの後追いをしようだなんて、やっぱり腹が立ちましたけどね……」
U治さんの状態が落ち着いたせいか、奥さんはいつになく上機嫌にそう話した。
「だからこれからは、私だけに優しくするのよ!」
奥さんは、U治さんの服のそでを引っ張りながら、そう言った。彼は、苦笑いをしながら、深くうなずいたのだった。(梅谷薫 心療内科医)
*本文中の事例は、プライバシーに配慮して改変しています。
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