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心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」

医療・健康・介護のコラム

嫁いびりが酷かった義母が他界 後を追って首をつろうとした54歳夫に、妻が放った言葉は…

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 「人って、あっという間に死ぬんですねぇ……」

 外来で、U治さんがボソッとつぶやいた。その言葉に、私は黙ってうなずいた。同席していた奥さんも沈痛な表情を見せた。U治さんは54歳の男性。「うつ病」の診断で、ずっとこの外来に通院している。

嫁いびりが酷かった義母が他界 後を追って首をつろうとした54歳夫に、妻が放った言葉は…

イラスト:奥山裕美

母のがんと職場トラブルが重なり「うつ」に

 亡くなったのは、彼のお母さん。82歳だった。U治さんが8歳のとき、父親が交通事故で亡くなり、その後は、母一人子一人で共にがんばってきた。毎日、つらいことばかりだったけれど、少し暮らしに余裕ができた時には、母子で旅行に出かけたり、ささやかな外食を楽しんだりして乗り切ってきた。

 そのお母さんが、子宮がんと診断されたのは5年前。大きな手術を乗り切って、抗がん剤治療などを続けてきた。しかし、徐々に衰弱がひどくなって、2週間前からは肺炎にかかり、先日、息を引き取ったのだ。

 この間、U治さんの嘆きは深かった。職場でのトラブルをきっかけに不眠になったのも5年前。母親のがん宣告と重なり、うつ病はそこから始まったのである。

 手術を受ける病院の手配や入院の準備と手続き、抗がん剤の副作用への配慮や看病……。自分のうつが少し落ち着いてくると、U治さんは母親の闘病のために全力を尽くした。奥さんも一緒になって、よくがんばってくれた。

 それだけに、お母さんが亡くなったときのショックは大きかった。「おまえを残しては死ねないよ」と言い続けてきた母の死を、彼が受け入れるには、しばらく時間がかかりそうに見えた。

 「今回はお薬を少し増やしましょう。寝る前の薬をきちんと飲んで、体をよく休めるようにしてください」

 と二人に告げて、私は、その日の診察を終えたのだった。

「朝方、首を吊っちゃいました!」と妻が

 「先生、やられちゃいました!」

 と、奥さんから電話で連絡が入った。お通夜と葬儀を終え、遺品の整理のために実家に戻り、しばらくたった頃のことだった。

 「朝方、首を吊っちゃいました!」

 四十九日でお母さんの 冥福(めいふく) を祈ったあと、U治さんは、生前、お母さんが過ごした部屋で首を吊った。母親が亡くなったのと同じ時刻、明け方のことだった。

 幸い、使ったひもが思ったより弱くて、そのまま床に転げ落ち、命に別条はなかった。大きな物音に驚いて駆けつけた奥さんが、腰をねじって動けないでいるU治さんを発見したのだ。そのまま救急病院に入院して、治療を受けることになった。

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梅谷 薫(うめたに・かおる)

 内科・心療内科医
 1954年生まれ。東京大学医学部卒。90年から同大学で精神科・心療内科研修。都内の病院の診療部長、院長などを経て、現在は都内のクリニックに勤務。「やまいになる言葉~『原因不明病時代』を生き抜く」(講談社)、「小説で読む生老病死」(医学書院)など著書多数。テレビ出演も多い。

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17件 のコメント

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むかし

au

私が実父を亡くした時、夫が、自分は私の父にもなる! と真剣に言ってくれたのを思い出しました。びっくりして、笑ってしましたが、20年たった今でも覚...

私が実父を亡くした時、夫が、自分は私の父にもなる! と真剣に言ってくれたのを思い出しました。びっくりして、笑ってしましたが、20年たった今でも覚えています。夫婦の愛情もまた、深いものだと思っています。

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結婚

akt

こんなマザコンとは絶対に結婚したくないわ。奥さんはよく辛抱されました。

こんなマザコンとは絶対に結婚したくないわ。奥さんはよく辛抱されました。

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うーん

皮肉屋

本当に優しいのは奥さんですよ。厳しい言い方かもしれないけれど、ご主人は気が弱いだけのような気がする。

本当に優しいのは奥さんですよ。厳しい言い方かもしれないけれど、ご主人は気が弱いだけのような気がする。

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