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「続・健康になりたきゃ武道を習え!」 山口博弥

医療・健康・介護のコラム

「この男は実在する!?」の極真空手 小6男子にどんな効果?

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「強さ」と「礼儀正しさ」を身につけさせようと

 玄樹君が空手を始めたのは、2012年5月。4歳の時だ。

 母親の ()() さん(48)によると、フランス料理店を経営する夫(玄樹君の父親)のみつ(まさ) さん(52)が格闘技の観戦が好きなこともあり、「自分の身を守る強さ」と「礼儀正しさ」を身につけさせたいと習わせた。

 ヨーロッパでの生活が長く、その際に差別も感じたことのある貢正さんは、我が子が将来海外に行ったときに、黒帯は必ず息子の役に立つはずと思っていたそうだ。長くいたフランスでは、空手の黒帯は日本以上に尊敬の対象になっていたのが理由だという。

 一方、侑紀さんは空手や格闘技にはまったく興味がなかったが、空手を習わせることには賛成だった。

 「団体競技ではなく個人競技だからこそ、自分に向き合える部分が大きいのではないか、と思いました」と侑紀さん。

 空手の流派はいろいろあるけど、なぜ極真空手を選んだのか?

 「痛みを知って、相手を思いやる気持ちを持ってほしいと思ったからです」

1970年代、少年の心つかんだ漫画「空手バカ一代」

 極真空手といえば、創始者の故・大山 (ます)(たつ) 総裁の半生を取り上げた漫画「空手バカ一代」(原作・梶原一騎)が1970年代、週刊少年マガジンに連載されて人気を博したので、私のような50代以上の男性にはおなじみだろう。ちなみに、私は文庫版全17巻を持っている。

 記念すべき連載第1回は、まず、原作者の梶原一騎氏と漫画のつのだじろう氏の連名による、こんな前置きから始まる。

 「これは事実談であり・・・この男は実在する!?」

 1953年6月の夜更け、米ニューヨークの下町の地下室。腕を組んで椅子に座る主人公(大山倍達)が、5人のギャングに囲まれている。左右の2人からナイフを首筋に突きつけられ、前の3人からは銃口を向けられている。絶体絶命のピンチ。どう考えても助かりようがない状況だ。しかし冷静な主人公は、超人的な空手技で5人全員を一瞬のうちになぎ倒す。

 この漫画のうまいところは、ここでどういう技を使ったのかを解説する点だ。こんな具合である。

 男は・・・イスごと まうしろにたおれながら両サイドの男を ()(けん) でたおし 同時に右足で前のテーブルをけりあげた!!

 空手でいう孤拳――すなわち手首に突起した骨による一撃である!

 五指をコブシににぎればそれだけ手間どるし・・・さりとて はじめからにぎりしめていては敵に警戒されるという場合の奇手――

 技の解説はまだまだ続くが、さすが、「巨人の星」や「あしたのジョー」といったスポ根漫画のジャンルを確立した梶原先生。詳細かつ合理的な技の解説で真実味が増す。少年たちの心をグイッとつかむツボを心得てます! 実際、「おお~、すげえ~! 俺も空手をやりたい!」と、この漫画を見て空手を始めた人は多かったらしい。

 ちなみに、「孤拳」をもう少し説明すると、手招きするように手首を曲げた時に手首の骨が少しとんがる。この部分で相手を打つのが孤拳だ。

「寸止め」せず、フルコンタクトで「痛みを知る」

  話がかなり脱線したが、極真空手は、突きや蹴りを相手の体に当たる直前で止める「寸止め」ではなく、フルコンタクト(直接打撃制)ルールの試合を行う空手流派の草分け的な存在だ。お互いに自由に技を出し合う「 (くみ)() 」の試合では、顔面への手(拳、手刀、肘など)による攻撃や金的攻撃(股間への攻撃)こそ禁止されているが、それ以外の部位には突き蹴りを直接、手加減なしで当てていい、というルール。

 組手で、相手のすべての攻撃を手や膝などで防御できればいいが、現実的には無理だ。受け損ねて相手の正拳突きが胸や腹に食い込んだり、太ももをローキック(下段回し蹴り)で蹴られたり。顔をハイキック(上段回し蹴り)で蹴られてダウンすることだってある。というか、組手で相手の攻撃が一発も自分に当たらないなんてことは、まず、ない。当然、当てられると痛みが走る。

 玄樹君のお母さんが言う「痛みを知る」のに、極真空手はもってこい、と言ってもいいだろう。

 では、玄樹君自身は、4歳で空手を始めることをどう感じていたのか。

 「体を動かすのは好きだったし、嫌だとは思わなかった。最初は何も分からなかったけど、続けていくうちに楽しくなってきました」

 さて、このコラムのテーマである「健康」。玄樹君は空手を続けて、健康面ではどんな良い影響があったのか。

 詳しくは、次回に。(山口博弥 読売新聞編集委員)

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山口 博弥(やまぐち・ひろや) 読売新聞東京本社編集委員

 1962年福岡市出身。1987年読売新聞社入社、岐阜支局、地方部内信課、社会部、富山支局、医療部、同部次長、盛岡支局長、医療部長を経て、2018年6月から編集委員。同年9月から1年間、解説部長も兼務。医療部では胃がん、小児医療、精神医療、慢性疼痛、医療事故、高齢者の健康法、マインドフルネスなどを取材。趣味は武道と映画観賞。白髪が増えて老眼も進行したが、いまだにブルース・リーを目指している。

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1件 のコメント

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武術やスポーツが教えてくれる様々な価値観

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

ついに、形を変えて連載再開ですね。 コメント欄を見て、3年前は、4年前の惨敗を踏まえて夏前だけ教えに行ってたことを思い出しました。 直前の戦術変...

ついに、形を変えて連載再開ですね。
コメント欄を見て、3年前は、4年前の惨敗を踏まえて夏前だけ教えに行ってたことを思い出しました。
直前の戦術変更も含めて、無事初戦突破を果たした2016年の香川での西医体サッカー。

今年は来週に迫りましたが、昨年の秋からかなりスケールアップしたと僕自身は感じています。
武術ではないですが、ボールを止めるたたずまいも変わってきたように思います。

とはいえ、3年前なぜ勝てたかと言えば、真夏の大会では凡事徹底とか気合根性の比率が大きいので、そういう部分があります。
対戦相手のくじや試合の展開の運不運ではあっさり負けるかもしれません。

こんなこと書いていいのか、とか思われそうですが、サッカーにおいて、強者さえカウンターアタックは攻撃の基本の一つですし、その事を織り込んでいい試合をしてほしいものです。
お互い必死ですし、勝敗はどうしようもない部分も少なからずあります。

さて、この3年で、社会情勢やパソコン・スマホを取り巻く事情も変わりました。
アナログな指導もある一方で、動画も無料や廉価でたくさん見られます。
そうやって考えると、本文の主役の子もフルコンタクトの空手の学びの意味も様々な角度から考えることができます。
効率的な学びが教えてくれる事もありながら、非効率な学びが育む能力もあります。

子供たちの学習環境や親御さんたちの経済事情も色々変わりつつある昨今ですが、少なくとも、グラウンドや試合場に立ったその瞬間だけの平等はスポーツや武道の本質の一つです。
スポーツ界のマイナスの面からも目を背けてはいけませんが、学び、繋がり、喜びは確かにありますし、より多くの人への間口をつくる意味でも本連載に期待します。
99,9%のプロになれなかった選手たちにとって、スポーツや武道は必ずしも敗北ではないですからね。

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