本田秀夫「子どものココロ」
医療・健康・介護のコラム
「人をなかなか信用しない子」も「過剰になれなれしい子」も…親から虐待された子どもに表れがちな「愛着形成」の異常
大人になっても困難を引きずり…
長期にわたって繰り返される虐待は、子どもにとって強い心理的トラウマ体験となります。2018年に公表された国際疾病分類第11版(ICD-11)では、長期にわたり反復的に受けた逆境体験によって引き起こされる「複雑性PTSD」という診断が採用されました。
愛着の形成がうまくいっていない子どもたちが、複雑性PTSDへと移行していくことは珍しくありません。複雑性PTSDでは、「再体験」(フラッシュバックや悪夢などの形でトラウマ体験が何度も想起される)、「回避」(トラウマ体験の記憶を誘発するような場所、人物、話題を避ける)、「過覚醒」(常に警戒してリラックスできない)、「情動不安定」(感情のコントロールがうまくできない)、「否定的な自己概念」(自分は価値が低い、恥ずべき、罪深いなどと感じる)、「対人関係の異常」(対人関係を維持し、親密な感情を持つことができない)といった症状が見られます。これらの症状は、思春期以降、多くの場合は成人期まで続き、社会生活を困難にします。
親自身が過去に虐待を受けていた例も多く
虐待は、子どもの発達にも影響を及ぼします。学習機会が十分に保障されないために、知的発達の遅れや学業不振が見られることもあります。また、ADHD(注意欠如・多動症)に似た多動性・衝動性や、自閉スペクトラム症に似た対人関係の異常やこだわり行動が見られることもあります。近年の脳画像研究では、繰り返し虐待を受けた子どもたちの脳に形態学的異常が出現するとの指摘があります。
愛着形成の異常、複雑性PTSD、発達の異常などは、大人になってからもさまざまなこころの問題を引き起こします。自信の低下、抑うつ、不安、自殺念慮、自傷、アルコール・薬物依存などの背景に、子どもの頃に受けた虐待があるケースは少なくありません。性的虐待を受けた人が性的逸脱行動を示すことや、身体的虐待を受けた人が非行や暴力などの問題を起こすことも珍しくありません。
子どもを持ったとき、怒りのコントロールができずに自分の子どもを虐待してしまうこともあり、「虐待の世代間連鎖」といわれます。実際、児童虐待の事例では、親自身が子どもの頃に虐待を受けていた場合が多いのです。したがって、虐待への対応では、被害を受ける子どものケアだけでなく、親自身が抱えているこころの問題と向き合うことも欠かせません。(本田秀夫 精神科医)
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極度に信用しないということも、極度に馴れ馴れしいということも、極端という意味では共通です。 成長過程でどうあるべきか、TPOに合わせて使い分けら...
極度に信用しないということも、極度に馴れ馴れしいということも、極端という意味では共通です。
成長過程でどうあるべきか、TPOに合わせて使い分けられるか、生存と密接に繋がっていくの発達過程での修正も難しいですね。
そういう性質や環境も職業選択の為の一つの基準です。
自分の性格にあった仕事を選ぶべきか、仕事に合わせて性格や人格をある程度調節するか?
自分も基本的には内向的だったはずですが、仕事のために取り組んで新しく作った人格や表現が、スポーツなどでも生かされることもあり、なかなか面白くもあります。
普通は初対面の人間にいろいろ聞いたり、べたべた触ったりしませんし、フィルムを冷静に診ません。
けれども、最終的に嫌われても怖がられても、仕事では短時間でコミュニケーションをとって、診断なり治療なりの決定を下してもらわないといけない。
今は、患者さんサイドもある程度標準医療の情報にアクセスは可能ですし、常識と大幅にかけ離れた医療はまず難しいでしょう。
もっとも、その常識という言葉で表される感覚も人それぞれ、地域それぞれ、世代それぞれで、専門化が進み過ぎる現代医療に危惧を覚えます。
20歳やそこらで、大学や大学院に缶詰になって、自分たちの仲間内意識や友達感覚を大事にし過ぎることが、様々な世代の一般人とのコミュニケーションに妨げにならないか?
もし仮に、そんなにうまくいかなくても、お互いに表現や感情の行き違いがあるということをよく理解するだけで、多少はうまくいくのではないかと思います。
そういう中で、部活やバイトの時間が無くなるほど、タスクが重たくなっていくカリキュラムにならないようになってほしいとは思います。
関連職種も一緒で、専門技術以前の人間的な問題が多くのケースで関与しています。
戦前の軍隊や戦後の占領に連なる社会構造の問題の中で、過去や制度との向き合い方も大事です。
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