陽子のシネマ・クローゼット
医療・健康・介護のコラム
自閉症の少年に言葉をくれた、ディズニー・アニメの脇役たち…『ぼくと魔法の言葉たち』

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言葉をなくし、沈黙の世界へ閉じこもった息子を取り戻すため、家族は諦めなかった。やがて、ディズニー映画の中の普遍的な物語が奇跡を起こす。『ぼくと魔法の言葉たち』(2016年)は、障害を持つ息子自身が豊かな世界観を創造しながら、徐々に言葉を取り戻し、人生を切り開いていく姿を追ったドキュメンタリー。
役になりきった父…奇跡が起きた!
主人公のオーウェンは、サスカインド家の次男。父のロンは、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者。母のコーネリアもかつては記者だった。2歳年上の兄ウォルトとオーウェンは仲が良く、いつも一緒にディズニーのアニメ映画を見ていた。
オーウェンは2歳の時、突然、言葉を失った。専門病院の医師は、「広汎性発達障害」だと診断し、「自閉症」という言葉も添えられ、「二度と言葉が戻らず、しゃべらない場合も」あると説明された両親は、失意の日々を送っていた。
ある日、家族でディズニーのアニメ映画を鑑賞していた時、オーウェンが発した言葉が、彼が飽きることなく繰り返し見ていた『リトル・マーメイド』のセリフだと、コーネリアが気づいた。それを手掛かりに、ロンが物語の役になりきってオーウェンに話しかけてみると、彼が言葉を返してきた。そこから、家族はオーウェンを取り戻すため、ディズニーの物語をあらゆる方法で活用し、彼の心に語りかけていった。
障害ではなく相違点と捉える
自閉症の子供は刺激を受けやすく、日々の生活での過剰な刺激を処理できない。彼らの脳にとって、世の中は強烈すぎる。わたくしのいとこの息子も自閉症で、幼い頃は、掃除機や花火のように大きな音に対しては敏感で、よく両手で耳を塞くしぐさをしていたのを思い出す。
ロジャー・ロス・ウィリアムズ監督は、制作の過程で自閉症への考え方が変わり、そうした特性を相違点だと思うようになったという。ただ障害と捉えるのは、可能性を潰してしまうこと。オーウェン自身も、「自閉症の人は、他人との関わりを嫌うと思われるが、間違いです」と、フランスでの講演で強調している。「自閉症の人も、みんなが望んでいることを望んでいる」と、当たり前のことを、彼はシンプルに伝えていた。
家族の愛で創造性が開花
オーウェンが底抜けに明るいのは、家族の偉大で貴い愛に囲まれているからだろう。特に母のコーネリアは、彼を守り、能力を開花させるために必要なものを与えてきたという。
医療の専門家たちが、ディズニーのアニメ映画の鑑賞を禁止する判断をした時も、コーネリアは拒んだ。オーウェンにとって、唯一、幸せに満たされるひと時であって、それが彼の創造性を育んでいることが分かっていたからだ。その決断が、後に奇跡を起こした。
オーウェンが家族の作戦によって徐々に言葉を取り戻し、コミュニケーションを成立させ、次第に社会との関係も築けるようになると、彼の聡明さが姿を見せはじめる。わたくしが最も感銘を受けたのは、オーウェンがリーダーシップをとって、大学で仲間たちと始めた「ディズニー・クラブ」だ。アニメ映画のシーンから、それが人生で何を意味するのかを話し合うという取り組み。実は、医学教育においても、同様の手法がある。映画のクリップを活用した、「シネメデュケーション」だ。一部の初期臨床研修医を対象に導入されている。
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自分の中の好奇心や表現方法を育むために。
寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受
突然言葉を失った・・・までの経緯が気になりますね。 頭の中の思考や感情の回路と表現の回路の不具合なのでしょうけど、それが精神的なストレスによって...
突然言葉を失った・・・までの経緯が気になりますね。
頭の中の思考や感情の回路と表現の回路の不具合なのでしょうけど、それが精神的なストレスによって断絶されたのか、何らかの炎症などの影響で失われたのか?
そして、それまでの発達の傾向なんかも、周囲や主治医の診断に影響を与えたことでしょう。
生命そのものだけでなく、好奇心という生きる意味も大事ですね。
ディズニー以外では無理ということもないのでしょうが、大手の映像産業の研究の成果は侮れないものがあります。
自分の中の新しい人格や表現方法をどう育んでいくかは、子供だけではなく、大人にとってもテーマです。
そういう角度で見ると、より多くの人にとって意味のある話に見えます。
僕も学会のサッカーでの出会いで、スペイン語とかドイツ語とかのカタコトだけでなく、言葉の成り立ちや歴史との相関を勉強しました。
やりたいこと、わかりたいこと、そういう目標があれば、生き生きとできる人も増えるでしょう。
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