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思春期の子どもを持つあなたに 関谷秀子

コラム

第7部 ヒステリー(転換性障害)(下)「生まれてこなければよかった」と絶望する娘。母親は「すべて自分が悪い」と……

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「ママにとって、私は邪魔だよね」

 実際に母親がそう伝えると、A子さんは少し 躊躇(ちゅうちょ) しながらも、「お父さんの写真を見せてほしい」と答えたそうです。

 そこで、手元に1枚だけ残っていた元夫の写真を見せ、「あなたが望むのなら、お父さんと連絡を取ることもできるのよ」と伝えました。しかし、A子さんはそれ以上、実父のことを聞こうとはしませんでした。

 母親は、元夫についてはそれ以上の話はしませんでしたが、A子さんの症状が改善し始めたのはこの頃からです。松葉 (づえ) を使って歩くことができるようになったのです。

 しかし、すべてが治まったわけではありません。依然として、A子さんには大きな不安が残っていました。

 A子さんは、母娘のトラブルになると、時折、「ママにとって、私なんて邪魔だよね。生まれてこなきゃよかったんでしょ」と自責的な言葉を母親に浴びせることを繰り返しました。

 あまりにも悲痛な言葉です。

 そのたびに胸を痛めてきた母親は、祖母に頼っていた自分の子育て、そして、自分の幸せのために再婚したことを後悔し、「A子がこうなってしまったのは全部自分が悪いんだ」と考えるようになりました。

 ひどく落ち込んだ母親を見て、更に言葉を強めて攻撃するということも繰り返されました。

 どうやら、母親とは真逆に、A子さんは両親が離婚してしまったのは自分が原因と思い込んでいるようでした。それは、さらに別の誤解を呼び込んでしまいました。

 母親自身がA子さんに注いできた愛情、それに二人の間の温かい思い出など、全くなかったかのように思い込むようになっていたのです。

 自分の子どもに発達上の問題が起こると、自責の念に駆られた親が、反省したり、後悔したりしてしまうことは珍しくありませんが、それは逆の効果となることもあるのです。

 親の後悔の言葉によって、「私は失敗作なんだ。もう何をやってもだめだ」と絶望に迷い込み、そこから出てこられなくなる子どもがたくさんいるのです。

子どもが「愛されている」ことを理解できるように

 私は母親に、「全部自分が悪い」と考えることよりも、A子さん自身が「自分は愛されているんだ」と思えるように関わっていくことが最も大切だと伝えました。そうすることで、A子さんは不安に駆り立てられることなく、やがて自信をもって将来に向かって進んでいくことができるはず」とも話しました。

 さらに「父親のどんなところに () かれて結婚したのか」「A子さんが生まれて、初めて抱っこしたとき、どんな気持ちだったか」など、自身の経験をA子さんに伝えてあげることを提案しました。

 間もなく、母親は自分のことを率直にA子さんに伝えるようになりました。「つらく大変な時期もあったけれど、A子さんを授かって本当にうれしかった」「離婚に至ってしまったのは大人同士の問題が理由であり、A子さんが原因ではない」……。

 母親が自分の経験を正直に伝えるようになるにつれ、A子さんの気持ちは少しずつ和らいでいきました。もちろん、一気に変わっていったわけではなく、A子さんが心から愛されていることを自然に理解するまで、行ったり来たりを繰り返しました。

 初診から1年半近くが経過した頃、ヒステリー症状が消え、普通に歩けるようになったA子さんは、学校生活に復帰していきました。(関谷秀子 精神科医)

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shisyunki-prof200

せきや・ひでこ
精神科医、子どものこころ専門医。法政大学現代福祉学部教授。初台クリニック(東京・渋谷区)医師。前関東中央病院精神科部長。

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