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「飛行機内は砂漠より乾燥」「酔いにくい席」「前日に発熱した時」…子連れ旅の注意点は?
夏休みです。お子さんがいるご家庭では、旅行に出かける機会も多いかと思います。飛行機の旅行、自動車の旅行…既にいろいろと予定を立てていらっしゃるかもしれません。
私は小児科医ですが、もう一つ専門があります。それは、旅行医学(渡航医学)です。海外旅行と国内旅行では、注意すべき点も違います。今回は、国内旅行の乗り物に関する注意点を中心に、子連れ旅行に関する医学的なお話をしたいと思います。
飛行機の中は特殊な環境
さて、お子さんとの旅行は、家族の思い出にもなりますし、子どもにとっても新しい世界を広げてくれる素晴らしいものです。しかし一方で、旅行は、ケガや病気のリスクと常に隣り合わせです。乗り物での移動にはどんなリスクがあり、どういう点に注意すればいいのか、一緒に考えてみましょう。
まず飛行機のお話をします。
飛行機に乗れる月齢をご存じですか。新生児は乗れないと思われるかもしれませんが、一般的には生後8日以降から搭乗可能です。ただ、やむを得ない場合でなければ、首がすわってから(生後3か月以降)が望ましいとされています。
飛行機の中は、実は特殊な環境です。通常の巡航高度1万メートルの上空では、外気は0.25気圧、気温は-50度、湿度は0%です。気圧や気温などを調整した機内の環境は、0.8気圧(海抜2700メートルとほぼ同じ)、酸素濃度は15%(地表では21%)、温度は22~23度、湿度は15~20%(砂漠の湿度20~25%より低い)になっています。つまり、飛行機の中は砂漠よりも乾燥しているのです。
このような環境でも、健康な子どもであれば、影響を受けることはまずありません。しかし、肺や心臓に病気があり、低酸素の環境では体への負担が大きくなるお子さんには、あらかじめ酸素投与の準備をしておく必要がある場合もあります。主治医の先生とよく相談してください。
泣いたりぐずったりした時
道中は快適に過ごしたいものですが、飛行機は閉鎖空間です。小さなお子さんが泣いたりぐずったりすると、周りの目も気になります。外来でも、「今度、飛行機に乗るのですが、その間、機嫌よく眠ってもらえるようにお薬を出してもらうことはできますか」と聞かれたことが何度かあります。フライト中の「鎮静」に関する臨床データはありませんが、医師の中には、「抗ヒスタミン薬を処方して、その副作用の眠気で何とかできるのでは」という意見を持つ人がいるかもしれません。しかし、小児科医の立場から言えば、特に幼いお子さんに眠気の強い抗ヒスタミン薬を投与すると、興奮したり、場合によってはけいれんを引き起こすリスクもあるためお勧めできません。実際に多くの専門家は、搭乗中のお子さんに対して、機内で静かにさせるという目的で薬を出すことに否定的です。搭乗前にたくさん遊ばせて、機内で眠れるような調整が望ましいと考えています。
「航空性中耳炎」になったら
機内でお子さんに起こるトラブルがもう一つ。それは、上昇時と下降時に機内の気圧が変化することによる、耳の痛みや耳が詰まったような症状です。特に、風邪やアレルギー性鼻炎で、耳の中の気圧と外気圧の調整が不十分になっていると起きやすく、これを「航空性中耳炎」と言います。乳幼児が機内で泣く原因の一つと言われていて、上昇時には6%、下降時には10%のお子さんが、耳の痛みを訴えるというデータもあります。
このような症状が起きた場合、乳児なら授乳し、幼児なら飲み物を飲ませます。ミルクの調乳は、キャビンアテンダントにお手伝いを頼むこともできます。比較的年長の子どもの場合はガムや飴などを食べさせるのも有効ですが、4歳未満の小さな子どもは 誤嚥 のリスクがあるため避けましょう。上昇中や下降中は乗務員が飲み物を用意できないため、保護者がすぐに与えられるよう、飲み物を用意しておくのがポイントです。なお、アレルギー性鼻炎がある場合には、搭乗前にあらかじめ点鼻薬を使っておくと効果的です。
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