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田村専門委員の「まるごと医療」

医療・健康・介護のコラム

「心臓手術後に再びマラソン」「4度の手術。得たもの、失ったもの」 弁膜症患者が交流会、体験語る

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弁の閉鎖不全症や狭窄症

 病気や加齢などが原因で心臓の弁がきちんと閉じなくなったり(閉鎖不全症)、狭くなったり( (きょう)(さく) 症)する心臓弁膜症。狭心症や心筋 (こう)(そく) といった冠動脈疾患と並び、心臓の代表的な病気だ。高齢化に伴い、患者も増えているとされる。外科手術のほか、血管から心臓に管(カテーテル)を通して治療する方法が開発され、治療の選択肢も増えた。

突然の大動脈解離を発症

 

「心臓手術後に再びマラソン」「4度の手術。得たもの、失ったもの」 弁膜症患者が交流会、体験語る

第1回交流会で自身の闘病体験を話す福原斉さん

 心臓弁膜症の知識の普及や患者の交流などを目指して設立された一般社団法人「心臓弁膜症ネットワーク」の第1回交流会が、7月21日、東京都内で開かれた。

 代表理事を務める福原 (ひとし) さん(60)は54歳の時、突然、胸と背中に強烈な痛みを感じ、救急車で病院に運ばれた。心臓から全身に血液を送る大動脈が裂けてしまう急性大動脈解離だった。

 福原さんは以来、脳梗塞などを含め6度の入院、4度の手術を重ねてきた。大動脈弁がきちんと閉じない大動脈閉鎖不全症も見つかり、人工の弁に置き換える手術も2度受けた。

 もともと医療機器メーカーのサラリーマン。血圧が高く薬物治療をしていたものの、夜遅くまで働き翌日は早朝から出社、出張も頻繁という「仕事人間」だったという。仕事にはいったん復帰したものの、治療のために結局は辞めることに。

 退職後は、地元の里山の保全活動に取り組むなど生活のスタイルも変化した。「病気になって失ったものも大きかったが、健康や家庭の大切さを気づかされるきっかけになった」と話す。

のんびり、ゆっくり、楽しく走る

 退職を余儀なくされたケースがある一方で、治療後も変わらず、活動的な生活を送りたいというのも患者の願いだ。同ネットワーク理事の 鏡味(かがみ) 正明さん(58)は、6年前に僧帽弁閉鎖不全症を発症し、手術を受けた。仕事には1か月ほど休んだだけで復帰し、自分は「完全復活」したつもりだったが、周囲にはかえって気を使われ、わかってくれないと感じていた。

 もともとマラソンが趣味。手術後は初めてとなる2016年2月の東京マラソン。背中に「心臓手術後 初マラソン ありがとう」と書いたゼッケンを着けて走った。すると、実は自分もがんの手術後だとか、これから治療を受ける予定だとか、ランナーが次々に激励の声をかけてくれた。

 心臓の手術をした後も多くの人が体を動かす機会をつくりたいと考えた鏡味さんは、主治医に相談し、医師や看護師のサポートのもとで、「心臓手術した人も一緒に ジョギング&ウォーキング大会」と銘打ったイベントを2017年に初開催。今年5月には第3回を開いた。

 無理をせず、ゆっくりのんびり走ったり歩いたり。「患者同士の交流にもなると同時に、退院後の患者に医療者が触れあう機会にもなっている」と話す。同様のイベントを全国に広げたいという。

複数の弁膜症を併発するケースも

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心臓の弁の仕組み(心臓弁膜症ネットワークのウェブサイトから)

 心臓には四つの弁があり、血液が逆流するのを防ぐ役目を果たしている。全身から心臓に戻ってきた血液を右心房から右心室に送るのが (さん)(せん)(べん) 、右心室から肺に血液を送り出すのが肺動脈弁、肺から戻ってきた血液を左心房から左心室に送るのが僧帽弁、左心室から全身に血液を送り出す大動脈へと結ぶのが大動脈弁だ。

 閉鎖不全が起きれば血液の逆流が生じ、また狭窄が生じれば血流が流れにくくなる。弁膜症はどの弁にも生じるが、なかでも起きやすいのが僧帽弁と大動脈弁だ。複数の弁膜症を併発するケースもある。

患者会の活動をサポート

 21日の交流会には約20人の患者が参加し、専門医の講演を聴いたり、参加者同士で悩みなどを話し合ったりした。心臓弁膜症の疑いがあるとして医師から経過を見ようと言われたが生活するうえでどんなことに気をつければいいのか、治療や治療後の生活を考える上での情報が足りない、などの声が聞かれた。

 心臓弁膜症ネットワークの活動をサポートしているのは、患者会活動の支援などを活動の柱に掲げて今年発足した一般社団法人「ピーペック」。代表理事の 宿(しゅく)野部(のべ) 武志さんは、人工透析を30年以上続けている腎臓病の患者であり、患者会の活動などにも取り組んでいる。

 宿野部さんは「病気の種類にかかわらず患者や患者会の活動を支援するとともに、患者の声を医療に生かせるよう社会に働きかけたい」と話す。患者や家族らが自由に語り合える場の開催なども進めている。

心臓弁膜症ネットワークのウェブサイト  https://heartvalvevoice.jp/

ピーペックのウェブサイト  https://ppecc.jp/

(田村良彦 読売新聞専門委員)

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田村 良彦(たむら・よしひこ)

 読売新聞東京本社メディア局専門委員。1986年早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。西部本社社会部次長兼編集委員、東京本社編集委員(医療部)などを経て2019年6月から現職。

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1件 のコメント

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オーバーワークを避ける社会への進化を

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

ちょうど、トミージョン手術を受ける少なくない人数が高校生以下というニュースも見かけましたが、超高度文明化社会へのシフトを鑑み、働き方改革とともに...

ちょうど、トミージョン手術を受ける少なくない人数が高校生以下というニュースも見かけましたが、超高度文明化社会へのシフトを鑑み、働き方改革とともに学び方改革やそれに合わせた生き方や社会構成を考えていかないといけないですね。

倒れてからのコミュニティもいいですが、倒れる前からのコミュニティにも繋がっていくといいです。
AIやITの優れた時代では、ビジネスもスポーツも一握りのタフやセンスを持った人がけん引しますが、それを下支えするのはセカンドグループ以下の「一般人」です。

8月10日は健康ハートの日だそうですが、ランニングはリハビリや整形外科のスタッフとの会話も大事です。
ハートは生命のキー臓器ですが、キー臓器はキー臓器だけで存在してもいません。
こういう話から、健康づくり、発症予防、重症化予防に繋がるといいですね。

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