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心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」

医療・健康・介護のコラム

「死にたくないから切ってる」…リストカットを繰り返す24歳女性 「かまい過ぎる母」からの脱出

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「死にそこなっちゃったんだね」 医師の言葉に憤慨

 T美さんが入院したと聞いたのは、それから半年後。しばらくして外来を訪れた彼女は、少し怒っていた。

 「お母さんと口ゲンカになって、わーっとなっちゃった。あんまりカアッとなったんで、思わず切ったんだけど、怒りで手が震えて、ザックリ切っちゃった。血が止まらなくなって、お母さんに見せたら、向こうもパニクって、救急車呼んじゃったんです」

 入院した病棟で診てくれたのは、若い先生だった。「あぁ、死にそこなっちゃったんだね。死にたいなら、もっと深く動脈切らなきゃ」と言われた。

 「頭にきて言い返したんです。『死にたくなんかないッ!』って。『死にたくないから切ってる。つらくて死にそうになるから切ってる。クスリなんか効かないから切ってる。あんたに何がわかるのよッ!』って。そしたらその先生、泡食ってどっかに行っちゃった」

 彼女の怒りはまだ続いているようだった。

宝物のように育てられ

 彼女を苦しめていたのは「母子密着」だった。体の弱い一人っ子だった彼女を、心配性の母親は、宝物のように大事に育ててきた。幼い頃に父を亡くしたT美さんにとっても、母親はたった一人の大切な肉親だった。

 だが、思春期以降、彼女はお母さんの「かまい過ぎ」が強い重荷として感じられるようになった。「あんたのことが心配なの」と言う母親に、人生まで縛られているようで息苦しくてならなかった。母親と口ゲンカになることが多くなり、それがつらくて、自分を責め続けた。ある日、母と大声で (ののし) り合ったあと、急に息苦しくなって救急車を呼んだのが、パニック発作の始まりだった。

「授かり婚」で母親から脱出

 その後、T美さんと、「母親からの脱出作戦」を練った。しかし、一人になろうとすると、なぜかよくないことが起きて、母親のもとに戻らざるをえなくなってしまう。次の手を一緒に考えているうちに、彼女からの連絡が途絶えた。

 次に彼女が外来を訪れたのは、1年後のことだった。かわいい赤ちゃんと一緒だった。

 「連絡しなくてすみません。あの後、ステキな彼ができて一緒に暮らすようになりました。おまけに、すぐにこの子ができちゃって……」

 「授かり婚」で、お母さんのもとを離れられたという。

 「この子ができたら、『この子のためにも、いい加減な生き方はできない』って思えたんです。あれからリスカはやってません。パニックを起こすヒマもありません。子育てって、こんなに大変で、こんなに素晴らしいことだったんですね!」

 「そう。とりあえず今回は『卒業』だね。本当によかった! また何かあったら、いつでも相談にいらっしゃい」

 そういうと、T美さんはうれしそうにうなずいてくれたのだった。(梅谷薫 心療内科医)

 *本文中の事例は、プライバシーに配慮して改変しています。

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梅谷 薫(うめたに・かおる)

 内科・心療内科医
 1954年生まれ。東京大学医学部卒。90年から同大学で精神科・心療内科研修。都内の病院の診療部長、院長などを経て、現在は都内のクリニックに勤務。「やまいになる言葉~『原因不明病時代』を生き抜く」(講談社)、「小説で読む生老病死」(医学書院)など著書多数。テレビ出演も多い。

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8件 のコメント

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いつか辞めれなくなる

ハル

いつかやめれなくなるから、みんな気を付けて。大事なのは自分の意見。

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バツ印

砂糖

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めちゃくちゃわかります……

#らの

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実は私もリスカをして3年になるのですが、親にはまだばれていません。ですが、いつかばれるような気がして、ビクビクしながら日々を過ごしています。そろそろ夏ですし、半袖になっていくとどうしても隠せなくなってきます。浅い傷ならまだしも、なぜか私、緊張して力が入って深く切ってしまうのです。友達に一回ばれましたが、「どうしたの!?」と言ってくれて、その理由を話したのです。そうしたら、泣きながら「ごめんね…何もしてあげられなくて…ごめんね…」と言ってくれたのです。世の中にはこういう優しい人もいるのだって、初めて気づくことができました。皆さんもそんな人と出会えるといいですね!

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