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心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」

医療・健康・介護のコラム

「死にたくないから切ってる」…リストカットを繰り返す24歳女性 「かまい過ぎる母」からの脱出

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 「先生、またやっちゃいましたぁ~」

 T美さんが心療内科の外来をおとずれた。軽いノリで言ってくるので、あまり緊張感がない。

 「どれどれ、見せてみなよ」とのぞき込むと、左手首に新しい切り傷があった。「いつも通り、浅いから大丈夫そうだね」と確認する。

 「前にバイキンが入っちゃってひどい目にあったから、気をつけてるんですよ~」

 と相変わらず、のんびりした口調で返してきた。

イラスト:奥山裕美

「ちょっと痛いけど、イヤな気持ちがスッと」

 T美さんは24歳の女性。診断は「不安症」だ。

 時々強い不安に襲われてパニックになる。最初に受診したのも、「過換気発作」だった。「急に空気が薄くなった気がして、あわてて息を吸うんだけど、どんどん苦しくなって救急車呼んじゃった」ということだった。

 軽い抗不安薬を持ち歩くことで、「また発作が起きても大丈夫」と安心できるようになり、発作の頻度は減った。

 次に問題となったのは「リストカット」だった。

 「これ、何とかならないですかねぇ?」と相談を受けた。10代の後半からずっとクセになっているという。最初は、気持ちがムシャクシャしてどうしようもないとき、リストカット経験者の友だちが話していたことを思い出して、恐る恐る切ってみた。

 「ちょっと痛いけど、イヤな気持ちがスッとした。これやってれば、とりあえず大丈夫!そう思えたんです」

リスカの世界もいろいろあって…

 そのうち回数が増えてきた。

 「何かキツいことやつらいことがあると、気持ちが高ぶってキレそうになるんです。頭の中がわーっと真っ白になってくるとき、まずはサクッと切って気持ちを落ち着ける」

 そんなパターンにはまってしまった。

 「リスカ友だちに聞くと、だいたいみんな、左手首を切ってますよね。右利きだと切りやすいし、手首は隠しやすい。まぁ、夏も長袖で通すのはつらいんですけどね……。手の甲は痛いし、目立つからあまり切らない。縦に切る人もいるけど、やってみたら痛かった。目立たないように舌を切る人もいるけど、なんか痛そう。リスカやる男のコは一人だけ知ってる。女のコみたいなヤツだった……」

 リスカの世界もいろいろとあるようだった。

 「今は、軽い安定剤で何とかしのいでよ。心配なことがあったら、いつでも相談に乗るから」

 と、こちらも軽い口調で返事をしていた。

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梅谷 薫(うめたに・かおる)

 内科・心療内科医
 1954年生まれ。東京大学医学部卒。90年から同大学で精神科・心療内科研修。都内の病院の診療部長、院長などを経て、現在は都内のクリニックに勤務。「やまいになる言葉~『原因不明病時代』を生き抜く」(講談社)、「小説で読む生老病死」(医学書院)など著書多数。テレビ出演も多い。

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8件 のコメント

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いつか辞めれなくなる

ハル

いつかやめれなくなるから、みんな気を付けて。大事なのは自分の意見。

いつかやめれなくなるから、みんな気を付けて。大事なのは自分の意見。

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バツ印

砂糖

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私はリスカを何度となくやってきました。それがクラスメートにばれて、理由を聞かれました。「理由なんかあなたに分かんないよ」と言うと、クラスメートは自分の腕を見せて、「俺も」と言いました。その後、お互いの悩みをぶちまけて、お互いの傷痕にバツ印を書き合いました。これをした後から、安定剤の量は増えたけれど、リスカはもうしてません。

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めちゃくちゃわかります……

#らの

実は私もリスカをして3年になるのですが、親にはまだばれていません。ですが、いつかばれるような気がして、ビクビクしながら日々を過ごしています。そろ...

実は私もリスカをして3年になるのですが、親にはまだばれていません。ですが、いつかばれるような気がして、ビクビクしながら日々を過ごしています。そろそろ夏ですし、半袖になっていくとどうしても隠せなくなってきます。浅い傷ならまだしも、なぜか私、緊張して力が入って深く切ってしまうのです。友達に一回ばれましたが、「どうしたの!?」と言ってくれて、その理由を話したのです。そうしたら、泣きながら「ごめんね…何もしてあげられなくて…ごめんね…」と言ってくれたのです。世の中にはこういう優しい人もいるのだって、初めて気づくことができました。皆さんもそんな人と出会えるといいですね!

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