40代から備えよう「老後のお金」 楢戸ひかる
医療・健康・介護のコラム
[番外編]がんになっても妊娠・出産をあきらめないで…AYA世代の治療を支えるお金の話
若者にのしかかる経済的な負担
お金や就労、生活などの面で、がん患者の個別相談に応じている黒田さんは、この経済的な負担を問題視しています。
「社会人になって日が浅いAYA世代は、年収も高くなく、貯蓄も少ない傾向があります。経済的な基盤が薄い中で、がん治療と妊孕性の温存の両立が経済的に厳しいと訴える相談者にたくさん会ってきました。例えば、ある未婚の乳がんの患者さん(30代前半)は、抗がん剤治療を受ける前に、約20万円かけて卵子の凍結を行いました。1年間の保存料は含まれますが、その後は、年間5万円の更新料がかかります。これらは公的医療保険が適用されず、全額自己負担です。公的な不妊治療費助成制度はありますが、原則は既婚者向け。未婚のがん患者に対する助成制度は、まだ、ごく一部の自治体しか実施していません」
15年に発表された厚生労働省の「がん対策加速化プラン」には、「セクシャリティの問題(生殖機能障害や性に関するボディイメージの変化等)への対応」が盛り込まれ、国として支援する方向を打ち出しています。
がん治療と妊孕性温存の両立には、支援の輪も広がってきています。例えば、滋賀県では2016年度、がん治療のために妊孕性を温存する女性に上限10万円、男性に同2万円の助成を始めました。19年度は、女性の受精卵凍結・卵巣組織凍結に20万円、卵子凍結に10万円と、助成額の上限を引き上げたそうです。
また、「全国骨髄バンク推進連絡協議会」(東京都千代田区)は、若年白血病患者の妊孕性温存の資金をクラウドファンディングで募りました。総額1000万円の目標は、700人を超える寄付者の協力のもと、19年6月3日に無事達成されました。
妊娠中にがんと診断された場合でも
妊孕性を温存する治療や患者支援の情報を得るために、相談できる場所もあります。がん診療連携拠点病院など、全国400か所以上に設置されている『がん相談支援センター』です。
その一つが、聖路加国際病院(東京都中央区)の「がん・相談支援室」。看護師の橋本久美子さんは言います。
「がんになったけれども、これから赤ちゃんを生みたいという人に伝えたいのは、『どうか怖がらないで! 正しい情報を入手して、赤ちゃんを、そして人生を諦めないでほしい』ということです」
同病院の北野敦子医師は、「近年では女性の晩産化の背景を受け、妊娠合併悪性腫瘍(妊娠期がん)の数が増えています。海外の報告では3000人の妊婦に1人の割合で、何らかのがんを合併していると言われています」と話しています。がん治療と妊娠が同時並行するケースもあるのです。同病院では、がん治療後に子どもを欲しいと考えているがん患者さんには、がん治療開始前に妊孕性を温存する治療を提供し、妊娠中にがんが見つかった患者さんには、がん治療と妊娠管理の両立を目指した療養生活をサポートしています。
「かつては、妊娠期がん患者さんは人工中絶を勧められることが多かったのですが、現在は、がんの種類や進行度によっては、妊娠を継続しながらがん治療を受けることが可能だとわかってきています。仮に妊娠中にがんと診断された場合でも、必ずしも妊娠を諦める必要はないのです」(北野医師)
筆者は、同病院で、がん治療の副作用で脱毛し、ウィッグを着用するがん治療中の妊婦さんにお会いしました。「おなかの子は、女の子です」と、臨月のおなかを 愛 おしそうに触る優しい表情が印象的でした。(楢戸ひかる マネーライター)
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