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うんこで救える命がある 石井洋介

医療・健康・介護のコラム

最近、うんこがすっきり出ないと感じたら

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 突然ですが、僕には大腸がありません(こちらの原稿を参照)。そんな僕は、便秘になることはありません。つまり、『便秘は大腸に関する問題がほとんどである』ということになります。便秘の原因は、とても簡単に分類すると三つ程度に分けられると考えます。

<1> 水分が足りなく、便が硬いパターン

<2> 腸の動きが悪く、便が動かないパターン

<3> 物理的な障害があり、便が詰まっているパターン

 うんこの構成比をご存知でしょうか。実は水分が半分以上で、残りの半分が腸内細菌・自分の細胞・食べカスで分け合う感じになります。水分不足により 便が硬くなってしまう ことが、便秘の原因の一つになります。

うんこが硬い方、腸の動きが悪い方は

 そこで<1>の「水分が足りていない=うんこが硬い」方には、腸内の水分を便に集める効果が高い、酸化マグネシウム製剤やルビプロストンという薬が処方されます。酸化マグネシウム製剤は市販薬でも購入できますので、気軽に内服を始められますが、まずは薬を飲む前に、以下のような生活習慣の改善から対策をしてみることをおすすめします。

 まずは摂取する水分量を純粋に増やすために、500mlペットボトルの水をいつもより1本多く飲んでみてはどうでしょう。外食が多く野菜不足になりがちの方は、便をやわらかくする作用があるとされている食物繊維を摂取するのもおすすめです。食事に細かく気を遣う余裕のない方は、ヨーグルト等の乳製品や乳酸菌飲料を飲んでみるのもありです。プロバイオティクスと呼ばれますが、慢性便秘症診療ガイドラインによると、腸内環境を整えることで便秘が改善する効果がある、とされています。

 次に、<2>の「腸の動きが弱まってしまう」場合ですが、その原因の一つに、血流不足があります。例えばデスクワークが多い方等は、運動不足によっておなかの血流が低下することで便秘になってしまうため、ウォーキングや体操をして血流を良くし、腸の動きを改善しましょう。ジムに通う時間なんてないという方は、疲れを取ってリラックスする意味でも、ゆったりと入浴することをおすすめします。

 また、腸の動きが悪い方に処方されることが多いのは、腸が便を送り出す「 蠕動(ぜんどう) 」を強める刺激性便秘薬(医薬品名:センノシド等)です。市販の便秘薬などはこの刺激性便秘薬が多く、早く効いて効果も高いです。ただ効果を感じやすい一方で、問題点もあります。この刺激性便秘薬は、使い続けると耐性ができ、徐々に効き目が弱くなってしまうのです。

 私が医師として実際に現場で診察したエピソードをご紹介します。大企業に所属する多忙なキャリアウーマンが便秘を訴えて来院されました。病院に行く時間がなく、センノシドを含む市販の便秘薬を自分で購入して飲んでいたのですが、市販薬を飲む量が少しずつ増えてしまい、最終的には 1回につき市販薬1箱を全て飲まないと便が出なくなってしまった ということでした。刺激性便秘薬は飲み続けていると効かなくなっていくため、次第に大量摂取しないと排便できなくなってしまうことが起こり得ます。私は、彼女の便秘はおそらく腸を動かす刺激性の薬よりも便の中の水分量を増やす薬が必要と判断し、便をやわらかくする薬を中心に処方したところ、やがて市販薬を使用せずに快便になることができました。

最も危険な便秘は

 最後になりますが、便秘の中で最も危険なものは、大腸がんに代表される<3>「 物理的な障害があり、便が詰まっている 」状態です。大腸がんが進行して腸の 内腔(ないくう) 、つまり便の通り道が狭くなったことで便が出にくくなることがあるのです。そのため、便の状態の変化で大腸がんの疑いに気づくことがあります。

  • 下痢と便秘を繰り返す
  • 便が細くなってきている
  • 便に血が混じっている
  • 便が残っている感じがある

などの症状が続く場合は、大腸がんの可能性を疑います。大腸がんは早期の段階ではほぼ無症状で、その間にもがんが徐々に大きくなり、腸が完全に詰まる「腸 閉塞(へいそく) 」になって初めて激痛が走る等の症状が出てきます。大腸がんを少しでも早く見つけるには、特に40歳以上の方で便の異常が長引くようなら、「たかが、うんこ」と侮らずに、受診や検診をおすすめします。

 他にも、お腹を手術したことがある方は、腸の壁同士などがくっつく「癒着」によって便の通り道が狭くなることがあります。基本的に外科手術が必要ですので、この場合も早めの受診をおすすめします。

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ishiyousuke_prof

石井洋介(いしい・ようすけ)

 医師、日本うんこ学会会長

 2010年、高知大学卒業。横浜市立市民病院炎症性腸疾患科、厚生労働省医系技官などを歴任。大腸がんなどの知識の普及を目的としたスマホゲーム「うんコレ」を開発。13年には「日本うんこ学会」を設立し会長を務める。現在は、在宅医療を展開する「おうちの診療所 目黒」に勤務し、株式会社omniheal代表取締役、秋葉原内科saveクリニック共同代表、一般社団法人・高知医療再生機構特任医師などを兼務。著書に「19歳で人工肛門、偏差値30の僕が医師になって考えたこと」(PHP研究所)など。

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