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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

コラム

「食べられなくなったときには……」 認知症をめぐる「食事の困りごと」にどう向き合うか(2)

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「食べられなくなったときには……」 認知症をめぐる「食事の困りごと」にどう向き合うか(2)

そうめんをすすれない方のために、めんつゆを使って涼しげな「寒天よせ」にしてみました

 前回のコラムでは、主に認知症の初期から中期の方への「食事の困りごと」について、私の体験をもとに工夫のしかたをご紹介しました。今回は、認知機能がさらに低下し、「食事介助をしなければ食べられない」「食事介助をしても食べ物を口から吐き出してしまう」「食べ物を口の中にため込んで飲み込まない」「むせてしまって食事が止まってしまう」など、食事摂取が難しくなってきたケースがテーマです。食べるための環境作りや薬の影響、食事の工夫についてご紹介します。 

食べる前の環境から整える

 みなさんは、テレビを見ながら食事をしますか? 

 我が家では、子どもたちが食事に集中できなくなるため、食事中はテレビを消しています。「食べながら、テレビを見る」というのは、一度に二つのことを同時に行っているため、注意力が低下して「食べる行為」に集中しにくくなります。 

 認知機能が低下してくると、「同時に二つのことを行うこと」が難しくなってきます。「飲み込みが遅くて、食事介助の時間がかかる」という相談を受けるとき、食事風景を確認すると「テレビがつけっぱなし」というケースが目につきます。音声や映像に気を取られてしまい、口の中の食べ物を飲み込まないままボーッとテレビを見つめてしまうのです。同様に、人の出入りや周囲の人々の話し声なども、食事への集中を妨げます。 

 また、食事の直前まで横になって眠っていては、まだうとうとしている状態のため、食事は進みません。たとえ寝たきりであったとしても、食事の1時間以上前にはベッドのリクライニング角度を上げ、口腔ケアや口腔マッサージなどでしっかりと目を覚まして食べる準備をします。割りばしにガーゼを巻き付けて水を含ませ、冷凍庫で凍らせると「冷たいガーゼの棒」ができます。それで舌や頬の内側などをアイスマッサージすると、目が開いてシャキッと目が覚める方もいます。 

薬が変わったら、食べなくなった!?

 重度の認知症で要介護5の80代女性Aさんは、皮膚の発疹がなかなか治らず、定期的に皮膚科に通院していました。ある日、夜中に発疹をかきむしって皮膚がただれてしまい、「かゆみ止め」の薬が変更になりました。しかし、新しい薬を飲み始めたら、ほとんど一日中眠っているようになりました。食事の最中にも、食べながら眠ってしまいます。 

 私が訪問すると、明らかにいつものAさんではなく、起こしてもしばらくするとまた眠ってしまいました。もちろん食事どころではありません。家族からすぐに皮膚科医に連絡してもらい、別の薬に変更してもらうことになりました。 

 一部のかゆみ止めには、副作用で強い眠気がでることがあります。意外と知られていませんが、嚥下機能にまで影響を与えてしまうこともあるのです。「認知症だから」と決めつける前に、服用している薬の副作用はないのかを確認する必要があります。 

「ザラつき」「ツブツブ」があると口から出してしまう

 食物形態の工夫が効果を発揮することもあります。 

 認知機能障害が進行すると、飲み込みの機能自体には問題がなくても、食べ物にざらつきやツブツブがあると口から出してしまうことがあります。すべての食事を滑らかなペーストやムース状にすることで、飲み込みやすくなります。食事をペースト状にするときには、すべての食材を一度にミキサーにかけるのではなく、色の違う食材を別々にミキサーにかけてから盛り付けると、食事がきれいに見え、見た目だけで食べ始める方もいます。「料理の原形が分からないドロドロの茶色い物体」では「食べ物」であることさえ認識しづらくなります。 

食べられなくなったとき、誰が決断するか

 口から食べられなくなる障害や病気は、認知症以外にもあります。どんなケースでも、なるべく口から食べられるように、さまざまな工夫はできます。食事内容の工夫だけでなく、姿勢や車いすを変更したり、生活リズムや服薬内容を見直したりするなど、さまざまなアプローチを検討します。 

 しかし、いろいろな手を打ってみても、ほとんど飲み込めなくなる方も実際にいらっしゃいます。徐々に衰えていくご本人を前にすると、「寿命なのかもしれない」とご家族が思うかもしれません。 

 覚悟を決めるのか、それとも胃ろうや鼻からのチューブを通じて栄養剤を注入して、水分や栄養を補うのか。もしご本人に判断能力がなかった場合、その決断を誰がするのか? 大変難しい問題です。 

 口から食べられなくても、必要な栄養の大部分は胃ろうを作って、そこから摂取し、あとは「好きな食べ物を好きなときに、少量だけ楽しむ」という選択をする方もいます。鼻からチューブを入れて栄養を入れる方法もありますが、「栄養を入れる」という点では胃ろうのほうが合理的な場合もあります。「胃ろうは拒否するけれど、鼻からのチューブはよい」と考えるご家族もいらっしゃいますが、ご本人にとってはかなりの苦痛でしょう。チューブを自分で抜いてしまうこともあるため、両手をベッド柵に拘束されることもあります。 

 はたして、その状態は本人が望んだことなのでしょうか。 

 いろいろな考え方があり、正解はひとつではありません。だからこそ、元気なうちから「食べられなくなったらどうするか」を家族でじっくりと話し合っておく必要があると思います。今回も認知症専門医の石原哲郎先生(医療法人社団清山会 みはるの杜診療所院長)に専門的なご助言をいただきました。(在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子) 

参考文献
「口から食べる幸せをサポートする包括的スキル」第2版p128~134 医学書院 小山珠美編

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塩野崎顔2_100

塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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