文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」

コラム

中年リストラ、50社就活失敗、引きこもり…家族の厳しい視線が追い打ち

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 私は、中高年になってから失業して「引きこもり」になった男性数人の相談・診療をしたことがあります。「失業して仕事が見つからないのが問題で、病気ではない」と言います。確かにもっともなところもあって、精神科医としてできることに限界を感じます。ただ、ご家族の受け止め方も、本人の気持ちにとって大変に重要ですので、そのことを考えるために、2人の方のケースをご紹介します。

リストラ失業で実家生活の49歳の男性

中年リストラ、50社就活失敗、引きこもり…家族の厳しい視線が追い打ち

 母親から相談があったケースです。本人は嫌がって受診していません。彼女の話によりますと、息子さん(49)は高卒後に部品メーカー(200人規模)に就職し、25年勤務。工場の製造ライン班長でした。独身です。

 10年ぐらい前から東南アジアの安い商品に押され、会社経営が悪化。リストラが始まり、給料が高く、IT(情報技術)に弱い中高年が希望退職のターゲットになりました。彼は経営者から「次の仕事はありません」と言われ、退職したのです。

 1年以上、職探しをしましたが、希望の職種や企業が見つからず、心ならずも引きこもりました。うつ病などの疾患はなく、健康な範囲内と考えられます。

1年間の就活でもダメだった

私 : 引きこもってから、どのくらいでしょうか?

母親: 1年半くらいです

私 : 職探しは、どうなっていますか?

母親: 失業手当がなくなる前から、ハローワークを中心に求職活動をしていました。ただ、担当者が求人企業に問い合わせると、年齢を聞いた途端に、人事関係者は「求人が決まりそうですから、今回は見合わせます」と言われて終わるようです。同様なことが、10件くらいはあったようです。辞める前の年収は550万円でしたが、それを300万円くらいに落としても難しいようです。

私 : そうですか。

母親: 息子がしていた仕事は不況で、求人はありません。それ以外も当たりましたが、2社、やっと面談まで進みました。倍率が10倍で、ダメでした。1年以上、頑張ったのですが、中年男性、息子のように手に職のない者の求職は難しい。

私 : そうですか。

母親: 警備員なども求人は減っているようです。女性は仲間からの紹介やハローワークでも、すぐに決まっていくみたいです。男は……難しい。

「近所に知られ、噂されたくない」と強調する母親

私 : なぜ、家に?

母親: 先生、いい年をした男が、昼間からブラブラしているのを、見られたくない、 (うわさ) されたくないからですよ。近所の目です。

私 : ご本人の気持ちは?

母親: 本人と言うよりも、夫と私の気持ち。

私 : お母さんが、そういう気持ちでは、息子さんはつらくなるでしょう。誰にも理解されないと思い、追いつめられるし。リストラは、多くの人にとって、明日は我が身ですから。彼の責任ではないので、そこをしっかり、わかってください。

母親: 理屈はわかりますが。世間が、近所の目がどうしても気になります。

ほぼ強制的な希望退職、50社就活がアウトの不運

 (一息、入れます)

私 : 引きこもりへの対応に関する集まりは、当事者だけでなく、家族会もあります。紹介するので、1回、顔を出されたら、いかがかな。ヒントがつかめますよ。

母親: う~ん。行くかどうか。私も乗り気ではない。

私 : いつでも良いから行ってくださいね。息子さんは、毎日何をしていますか?

母親: ゲームが多いでしょう。食事はきっちりとり、部屋で筋トレを1時間。先生、50社に応募して、就職できないのだから、息子が諦める気持ちはわかります。

私 : わかります。

母親: かわいそうで。不条理です、世の中は。まじめな息子だから、余計に。親ができることは、住む場所、3食、部屋、掃除、洗濯でしょうか。

私 : 心の病気があるかもしれないので、念のため受診はいかがでしょうか?

母親: それとなく2回くらい言いましたが、「病気じゃない。ついていない。不運だ」と言うだけで。

家族が「近所の目」を気にすると、本人をさらに落ち込ませる

 この事例のように、家族が「世間の目」や「近所の目」を気にするのは、高齢者にしみこんでいる日本的慣習から言えば、わからないわけではないですが、不本意なリストラによる失業で落ち込んでいる本人に、さらに「ダメな人」と追い打ちをかけます。つらくさせます。そういうことは言わないで、家族ならではの温かい 眼差(まなざ) しでサポートしてほしいです。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

natsume-prof

夏目誠(なつめ・まこと)
 精神科医、大阪樟蔭女子大名誉教授。長年にわたって企業の産業医として従業員の健康相談や復職支援に取り組み、メンタルヘルスの向上に取り組んでいる。日本産業ストレス学会前理事長。著書に「中高年に効く! メンタル防衛術」「『診断書』を読み解く力をつけろ」「『スマイル仮面』症候群」など。ブログ「ストレス点数の夏目」はこちら

産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」の一覧を見る

2件 のコメント

コメントを書く

AIとITによる人と企業の寿命の転換期で

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

生きるって難しいことだらけですね。 精神症状や精神に起因する身体症状の何割かが価値観の問題や社会的な問題であるとわかります。 目先の勝敗が必ずし...

生きるって難しいことだらけですね。
精神症状や精神に起因する身体症状の何割かが価値観の問題や社会的な問題であるとわかります。

目先の勝敗が必ずしも最終的な結果に結びつくわけでないことは、項羽と劉邦の関係が教えてくれますが、そんなに強い意思と遠い視座を持ち続けること自体が多くの人間に非現実的です。

運不運で片づけられることは、実は若い頃の勉強不足の結果の場合もありますが、普通の人は自分の日常と専門の勉強と仕事で手いっぱいです。
その事の切り替えの問題は本当に難しいですね。
そこに、近親者が、その人の価値観や感情を押し付けてくると、立てるものも立てなくなる場合があります。
自分は適齢期に焦って結婚しなくて結果的に良かったです。
経済負荷や相手やその家族の価値観や感情に縛られることはマイナスも多いです。
(裏返しで少子化対策の要素。)

実際、AIとITによる社会の変化は多くの個人の再学習のレベルを超えてますので政治的課題ともいえます。
もしも、そういう対処しなければ、いずれ、治安の極度な悪化とかそういうレベルに行く日も来るのかもしれません。
そうやって考えると、こういう記事に興味や関心を持つことは偽善ではなく、学ぶべき現実でもあるとわかります。

あるいは、ある人をリストラした企業が先に企業寿命を終えるパターンあるでしょう。

つづきを読む

違反報告

働かざるもの食うべからず

らふ

働こうという意識がない人や、以前の仕事にこだわったり、自意識過剰な人に多いですよ。働こう、食って行かなくちゃと思ったら謙虚な気持ちでなんにでも飛...

働こうという意識がない人や、以前の仕事にこだわったり、自意識過剰な人に多いですよ。働こう、食って行かなくちゃと思ったら謙虚な気持ちでなんにでも飛び込んで行かないと仕事になんてつけませんよ。自分で働いて自分で食う。これが出来ない人に仕事に就く条件など言う資格なんてないんです。就活にも工夫が必要。掃除の仕事なんて人が足りなくて引く手あまた。とりあえず自分が入れそうなところで賃金を手にすることを覚えることです。親がいつ居なくなっても自分が生きていく力をつけないといけませんね。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、ヨミウリ・オンライン(YOL)、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事