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心のアンチエイジング~米寿になって思うこと 塩谷信幸

医療・健康・介護のコラム

美しさの表現には演出も必要?

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美しさの表現には演出も必要?

 僕は「アンチエイジング塩谷塾」と題して毎年8回ほどの連続講座を開いています。アンチエイジングの 啓蒙(けいもう) のために作られたNPO法人アンチエイジングネットワークの事業の一環として、6年前に始めました。毎回、美容外科医や皮膚科医、心理の専門家などを招いて、最新知識を学ぶだけではなく、「何のためのアンチエイジングか」という問題意識を持って、テーマを変えグループディスカッションを行っています。こうした討論の時間を設けるのは、僕自身の長年の疑問も関係しています。

美しく年を重ねるとはどういうことか?

 僕は北里大学で形成外科・美容外科教室を23年間主宰してきました。形成外科というのは、けがややけどなどで変形した顔や手足を皮膚移植などで元に戻すのが目的の外科です。そこから派生して、元来正常な顔を更に美しくというのが美容外科です。

 夢中でメスを握っている時は、なんのために手術をするか、など考える暇はありませんでした。正直申し上げると、手術が楽しくて仕方がありませんでした。お恥ずかしい話ですが、定年になってメスから離れ、初めて俺はなんのために手術をしてきたのだろうと考え始めたのです。美容外科は医療行為です。医療はどんなささやかなことでも危険を伴います。注射一本でも運が悪ければ命に関わることがあります。そうまでしてなぜ、女性たちは手術を受けるのかという疑問です。それをみんなで考えてみようということで、毎年取り上げるテーマのひとつは、「美しく年を重ねるとは?」。

「内面から輝き出る美しさ」「年相応の美しさ」……

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 討論のきっかけとして、僕は最初に黄色いバラのつぼみをお見せします。花を人に贈る時、若々しいつぼみを選び、その後、花は美しく開き、贈られた人を喜ばせます。それも1週間ほどで (しお) れてしまうということをスライドでお見せします。萎れた花を贈る人はいないし、贈られたら侮辱されたと思うでしょう。つまり花の場合は、「若さ=美」で何も疑問を持ちません。ですが、人の場合はどうでしょうか?

 「若さ=美」なら、「美しく年を重ねる」ということはナンセンスになります。この「美しく年を重ねる」をテーマに、それぞれのグループで討議していただきます。

 メンバーの多くはアラフィフの女性で、美に対する関心の深い方ばかりです。これまでの討論を聞いていると、決して20歳台に戻りたいわけではなく、その年齢にふさわしい美しさがあるはず、とおっしゃいます。「内面から輝き出る美しさ」というのも圧倒的に多いご意見です。ですが、これを具体的に示せと言われてもなかなか難しい。

 ロールモデルを思い浮かべると、オードリー・ヘプバーンとか、91歳で現役モデルのイギリスのダフネ・セルフなどがすぐに挙げられます。そこで思うのは、彼女たちは容貌以前にこれまでの活躍ぶり、人となりなどが目に浮かび、見た目の美しさの裏付けになっていることです。

内面の蓄積は外見に表れるか

 ある年齢以上になれば、その人の内面の蓄積が見た目ににじみ出てくると考えたくなるのは誰しもです。塾生のみなさんのお話をおうかがいすると、会社の経営者など自営の方も多く、仕事でも家庭でもこれまで自信を持って人生を築いてきた様子がうかがわれます。「内面から輝き出る美しさ」とおっしゃりたくなるのもわかる気がします。

 塩谷塾は東京・銀座で開いていることもあってか、みなさん、とてもおしゃれで、華やかです。個性を生かしたメイク、ヘアスタイル、ファッションでご自身を上手に演出していらっしゃいます。そう考えると、さきほどの著名人もテレビや雑誌などのメディアを通じて私たちの目に触れるわけですが、個性を生かしたメイクやファッションで決めています。そのためのプロがついていることでしょう。

美しさを自分なりに演出、自分の価値観も重要

 赤ん坊なら、生まれたままの丸裸で愛らしく美しい。子供たちも演出は不要かもしれません。しかしそれなりの年齢になった時、「内面から輝き出る美しさ」を周囲の人に感じていただくには、やはり自分を演出することも必要なのかと思うことがあります。

 レーザーを使ったシミ取りは気軽に行われていますが、メスを入れてシワやタルミを取ったり、目や鼻に手を入れて顔貌を変えたりする治療となると、手術に伴う危険もあります。最近は、化粧で問題を改善できないかも美容外科のカウンセリングで話題にし、その上で手術を選択されるようです。

 手術も自分を演出する方法のひとつという面があるかもしれませんが、それだけではないでしょう。人にどう自分を印象づけるかということ以上に、コンプレックスの解消も含めて自分自身の価値観が重要かもしれません。アンチエイジングに関心を寄せる一人ひとりの心の中で、その意味を深めていく。塩谷塾がそんな場になればと思って続けています。(塩谷信幸 アンチエイジングネットワーク理事長)

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塩谷信幸(しおや・のぶゆき)

1931年生まれ。東京大学医学部卒業。56年、フルブライト留学生として渡米、オールバニ大学で外科および形成外科の専門医資格を取得。64年に帰国後、東京大学形成外科、横浜市立大学形成外科講師を経て、73年より北里大学形成外科教授。96年より同大学名誉教授。日本形成外科学会名誉会員、日本美容外科学会名誉会員。NPOアンチエイジングネットワーク理事長、日本抗加齢医学会顧問、アンチエイジング医師団代表としてアンチエイジングの啓蒙活動を行っている。

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