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ピック病(認知症)介護『父と私の事件簿』

コラム

【最終回】落ち着いてきた父 自分でブレザーを着て出かけ…「事件簿」もう増えないで!

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 「先生、やっぱり家の周りをよく歩いたほうが、健康にはいいんですよね」

 父が、数か月に1度通っている神経内科の医師に言った。正論だが、私にしてみれば「何を言い出すの。やめて!」であった。

 なぜなら、父は、昨年7月、家の近所を歩いていてふらつき、顔から転倒。おでこの肉と皮膚がたれさがる裂傷を負った後、自ら患部をハサミで整えてしまい、おでこが骨になるという 驚愕(きょうがく) の事件を引き起こしたからだ。

 けがをする前も、1日に何度も歩いて買い物に行っていたが、事件の後になって、近隣の人たちから「いつも信号無視をしてあぶなかった」「ふらふら歩いてるのが、気になってた」などという目撃情報を聞いた。自宅周辺は幹線道路も多く、父を一人で歩かせるのは、もう危険だとわかった。なので、現在は、買い物は小規模多機能型居宅介護事業所への通所の時に、必ずスタッフの付き添いでスーパーに行っている。

 そして、たとえ付き添いがいても自宅の周囲は歩かせないよう、ケアマネジャーと相談して決めている。なぜなら、以前一人で出かけていた習慣を思い出し、私がいない時に外をうろうろしだすかもしれないからだ。

 その事情を医師も知っているはずだが、うっかり「そうですね」などと返事をされたら大変。必死で目配せを送った。それをキャッチしてくれた医師は、「もうお一人で歩くのは危ないですから、見守りの方と一緒に歩いたり、施設内を歩いたりしたらどうですか?」と言ってくれた。父は、 () に落ちない顔をしている。

長谷川式の点数が改善

【最終回】落ち着いてきた父 自分でブレザーを着て出かけ…「事件簿」もう増えないで!

 そんな父だが、ピック病とアルツハイマー型認知症の混じった症状が、最近は緩和している気がする。実際、この日に受けた認知症の長谷川式テストは、わずかだが、今までで一番よい点数だった。しかも、これまでは待合室にじっと座っていられずにうろうろしていたのが、この日は落ち着いていた。医師も、「なんか、今までで一番、状況がいいみたいね」と言ってくれたから、どうやら気のせいではないようだ。

 昨年7月の事件から、一時は認知症がかなり進んだように見えたが、最近は家と通所の生活に慣れ、確かに問題行動も減っている。春になった頃には、自らタンスの中からブレザー型の上着を出し、通所に出かけた日もあった。この時の父は、かなりパリッとして見えた。冬の間ずっと、コートの下には、毎回同じ分厚いセーターを着て通所し、「同じものしか持ってないみたいだから、他のにして」といくら言っても、断固替えなかったのに。その日、ケアマネさんと電話で話すと、「今日の姿を見て、みんなで『本当に先生みたい(父は元教師である)』『先生! 先生!』とスタッフで盛り上がってたのよ。それに、じっと座っていられないからいつも参加できない音楽療法にまで参加して、落ち着いてたよ」と。それは驚きだ。

助けられた小規模多機能のサービス

 そういえば、けが以来、通所でしか外出しないので、「洗いやすい衣服を」と思い、下はジャージ、上は綿シャツに、いつも同じセーターをはおるのがが基本。ろくな格好をさせていなかった。私自身も家ではぼろぼろの格好をしているので、「やっぱり、服装は大事なんだ」としばし反省。「昔の背広やスーツのズボンも、変な話、タンスのこやしになるだけ。だったら、着つぶす覚悟で、どんどん着せて、家で洗ったら?」とケアマネさんに言われる。確かにそうだ。父がきちんとした服装で出かける場は、多分もうないだろうから、しまっておくのはもったいないかもしれない。

 そんなふうに、約1年間かけて、徐々に落ち着いてきた父。冒頭の発言のように、元気になり、体力も余ってきたのは喜ばしい反面、それは、私がいない時に何をしでかすかわからない危険があることを意味する。日々、もう少し運動をして体力を使う機会があるといいのだが、介護保険で小規模多機能と契約していると、他の業者を利用することができず、筋トレなどを行うデイサービスには行けないのが悩みの種だ。

 それでも、通所、宿泊、生活支援などの介護サービスを一括して行ってくれる小規模多機能はとても便利だ。役所の介護福祉課の人や、通っている施設のケアマネさんは、「症状に合わせてサービスや利用施設を変えていくのが正しい介護サービスの使い方だから、小規模多機能にもいろいろあるし、遠慮しないで他を見に行っていいのよ」と言うが、実際には、変えることに不安があり、なかなか他のサービスには切り替えられない。

 父が通っているのは、常勤の看護師さんがいる看護小規模多機能型居宅介護事業所で、比較的、病気などを抱えている利用者も多い。父も、おでこが骨なのに手術の日まで入院することができなかった時と、手術後に皮膚が落ち着くまでの間、宿泊できるよう、看護師さんがいるこの施設を選んだのだ。もちろん、父と同じような認知症の人もおり、けががよくなった後も、このまま通所していて一向にかまわない。スタッフたちも、ピック病の父の症状にうまく対応してくれていて、父も通所を嫌がらず、現在につながっていると思う。

 ただ、小規模多機能は多くの機能を備えている分、通常のデイケア専門施設に比べると、一般にエンタメ性は少し薄いようだ。それはやむなきことだが、父は長い時間いることができず、体力が余ることがある。通っている事業所の近くに、小規模多機能でありながら、かなりアクティブに利用者を過ごさせる 稀有(けう) な施設があるので、見学には行ってみようと思っている。

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田中亜紀子(たなか・あきこ)
 1963年神奈川県鎌倉市生まれ。日本女子大学文学部国文学科卒業後、OLを経て、ライター。女性のライフスタイルや、仕事について取材・執筆。女性誌・総合誌などでは、芸能人・文化人のロングインタビューなども手がける。著書に「満足できない女たち アラフォーは何を求めているのか」(PHP新書)、「39.9歳お気楽シングル終焉記」(WAVE出版)。

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