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心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」

コラム

不倫、退職…やっと幸せを手に入れた32歳女性 なぜプロポーズを受けた直後に飛び降りたのか?

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 「もしもし、こちら警察です。○崎S子さんについて、お話をうかがえますか?」

 ある日、警察から電話があった。

 S子さんは、確かに私の心療内科外来に通っている。

 「S子さんがどうかされたのでしょうか?」

 「昨夜、マンションの5階から飛び降りました」

 「!」

 私は息をのんだ。

 「それで、容体は?」

 「意識はありません。予断を許さない状態とのことです」

 私は言葉を失った。彼女は先週、「彼からプロポーズされた」と、うれしそうに報告に来たばかりだったのだ……。

不倫、退職…やっと幸せを手に入れた32歳女性 なぜプロポーズを受けた直後に飛び降りたのか?

イラスト:奥山裕美

上司との関係が原因で「うつ病」に

 S子さんは32歳の女性。診断は「うつ病」。3年前にはじめて外来を訪れた時は、気分の落ち込み、気力の低下、不眠や不安など、典型的な症状がすべてそろっていた。

 原因は「上司との不倫」だった。

 彼女は 清楚(せいそ) で知的な印象の女性で、配属先の部長からすっかり気に入られてしまった。個人的な誘いは断ってきた彼女だったが、「キミのことを大切に思っているんだ」「思いつめるタイプのようだから心配なんだよ」という言葉に心が動いた。「そんなに私のことを思ってくれるなら……」という気持ちから、親しい関係になってしまった。

 それからは大変だった。部長は強引な人で、こちらの気持ちなんか考えてくれない。身勝手な部長に振り回され、心身ともに疲れ切ってしまった。そして、ある日、部長の奥さんが、彼女のマンションにやってきた。さんざん責められ、 (たた) かれ、 (ののし) られた。彼女は人格を全否定され、ひどくショックを受けた。会社も辞めざるを得なくなった。強い「うつ病」の症状が発現したのはその時である。

「プロポーズされたんです」 笑顔で話したのに

 心療内科での治療と、会社を離れたことにより、S子さんの症状はゆっくりと改善していった。

 新しい職場で働くうち、2歳年下の同僚から思いを寄せられた。真面目で誠実な印象の人だった。こちらの話をよく聞いてくれる。自分の意見をおしつけたりせず、今まで会ったことのないタイプだった。彼と付き合うようになってから、うつ病の症状はさらに軽くなった。診断も、「抑うつ状態」とワンランク軽くなり、薬も減らしてきていた。

 そして、先週。

 「先生、彼からプロポーズされたんです」

 S子さんは、控えめな笑顔でそう告げてきた。

 「そう、よかったね!」

 「ありがとうございます」

 これまでの苦労がようやく報われる。そんな印象だった。

 しかし、その彼女がマンションから飛び降りた。どうしてそうなったのか、私にはわからなかった。

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梅谷 薫(うめたに・かおる)
 内科・心療内科医
 1954年生まれ。東京大学医学部卒。90年から同大学で精神科・心療内科研修。都内の病院の診療部長、院長などを経て、現在は都内のクリニックに勤務。「やまいになる言葉~『原因不明病時代』を生き抜く」(講談社)、「小説で読む生老病死」(医学書院)など著書多数。テレビ出演も多い。

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2件 のコメント

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不幸や習慣との共依存とどう向き合うか?

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

孟母三遷の教え、というものがありますが、環境とか習慣のもつ依存性は怖いものです。 ベトナム戦争後のPTSDが知られていますが、生命の危機と結びつ...

孟母三遷の教え、というものがありますが、環境とか習慣のもつ依存性は怖いものです。
ベトナム戦争後のPTSDが知られていますが、生命の危機と結びついた習慣や感覚は中々とれません。
あるいは、自閉症スペクトラムなんかの一部とも関係があると思います。
それが、先天的なものか、後天的なものか、両方か、いずれにせよ、心身の安定がいわゆる不幸であることと結びつくと難解で解決困難です。
逆に、そんな事を知らない、気づかない人の方が良いのかもしれませんね。

さて、芸能界のお笑い芸人の比率が上がって久しいです。
制作費や人件費の兼ね合いもありますが、人が現実に疲れているからではないかと思います。
実際、世の中なんてそんなものですから、教養としてのお笑いも大事だと思います。
なんでもお金と笑いに変えてしまった方が、まだましですよね。

なんでも真面目にやれば幸福になれるわけでもありません。

そういう考えやコミュニケーションは、常識的ではないので、それがまた難しい事ですが、医療やカウンセリングも相性に合わせたチームプレーにすればいい結果になる確率が上がると思います。

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せと

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