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脳などへの合併症も…重症化しやすい子どもの食中毒をどう防ぐ? 冷蔵庫内にもリスクが

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ユッケ集団食中毒では子どもが犠牲に

 次に、具体的に食中毒のリスクが高い食べ物と、その対策についてお話しします。

【加熱不十分な鶏肉や豚肉】 カンピロバクターやサルモネラ菌に汚染されている可能性があります。カンピロバクターは、最も食中毒を引き起こしている細菌で、多くは加熱不十分な鶏肉料理が原因です。鶏刺しや鶏レバーの生食は、子どもには絶対に避けてください。カンピロバクターもサルモネラ菌も熱に弱く、しっかり加熱することで防げます。

【生卵】 サルモネラ菌に汚染されているリスクがあります。日本の鶏卵は、1万個に3個がサルモネラ菌に汚染されているというデータもあります。そうお話しすると、「生卵を食べていいのは何歳から?」と聞かれることがあります。公益社団法人日本食品衛生協会のHPでは、「2歳以下の乳幼児は生卵を避ける」という記載があり、私も「3歳から」とお伝えしています。

【生の牛肉】 2011年、富山県などの焼き肉チェーン店でユッケ集団食中毒事件が発生しました。原因は、腸管出血性大腸菌O-111に汚染されたユッケでした。腸管出血性大腸菌は、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの重い合併症を引き起こすことがあります。特に子どもは重症になりやすく、この事件でも、亡くなった5人のうち3人は14歳以下でした。

 これをきっかけに、生食のユッケや生レバーの提供が禁止されました。ユッケや生レバー以外にも、火の通りが不十分なハンバーグやつくね等のひき肉料理も注意が必要です。肉は、とにかくしっかり焼くことが大事。生の牛肉にはサルモネラ菌やカンピロバクターが付いているリスクもありますが、これらも加熱で殺菌できます。はしやトングは、生肉に触れるものと、加熱済みの食べ物に用いるものを使い分けましょう。冷蔵庫内で、生肉と他の食物を接触させないことも大切です。

【魚介類や二枚貝の生食】 ノロウイルスなどの感染リスクがあります。ノロウイルスは、特にカキやハマグリなどの二枚貝から感染することが多く、感染した人から人へも下痢や嘔吐物などを介してうつるので、家族を中心に感染が非常に広がりやすいという特徴があります。また、サバやサンマ、アジ、イカの生食には、アニサキスのリスクがあります。そのため、魚や貝を子どもに食べさせる際にも、加熱するのが望ましいでしょう。

 時々「刺し身やすしは何歳から?」と聞かれますが、これは難しい質問で、決まった答えはありません。感染症のリスクがある点、特に乳幼児は重症化しやすい点を念頭において、慎重に判断していただければと思います。

【古くなった魚】 温度管理が不十分な魚では、傷むときに菌が増殖してアレルギー物質(ヒスタミン)が作られ、アレルギー症状(じんましんや嘔吐、下痢など)を起こすことがあります。子どもに起きやすいと言われており、多いのは、マグロ、カジキ、サバ、ブリなどの赤身の魚です。できるだけ新鮮な魚を買い、早めに消費し、とにかく古い魚は食べないようにしてください。ヒスタミンは熱に強いため、加熱しても予防効果はありません。

数日の潜伏期間があるものも

 最後に、食中毒について意外と知られていないことをお話しします。

 まず、嘔吐や下痢で、「食べ物が原因では?」と病院を受診される際、多くの方は「その日に食べたもの」が原因だと思っていらっしゃいます。しかし、食中毒の原因となるカンピロバクターや病原性大腸菌などは潜伏期間が数日ありますので、少し前に食べたものが原因のこともよくあります。受診したときは、症状が出る前の数日間に食べたものについて教えていただけると助かります。

 また、細菌性食中毒の原因として最も多いカンピロバクターは乾燥に弱く、室温では長く生きられませんが、4℃の環境では約1週間も生存可能です。温度が低く、酸素に触れない環境ほど長生きしますので、実は、冷蔵庫内はカンピロバクターの生存に適していると言えます。「冷蔵庫に入れていたから」と安心しないで、賞味期限を守っていただきたいと思います。

 今回は、食中毒についてまとめました。これらの情報は、われわれの保護者啓発活動「教えて!ドクター」で作成したフライヤーでも見ることができます。ここで触れていないハチミツやぎんなんからの食中毒や、胃腸炎のホームケアについても書かれていますので、お役に立てていただければと思います。(坂本昌彦 小児科医)

参考文献:
  1. 伊藤武ほか:食中毒概説.小児科臨床65:1307-1314,2012
  2. 磯貝恵美子ほか:人獣共通感染症(サルモネラ症).小児科臨床70:2359-2366,2017
  3. 青木知信:サルモネラ感染症,カンピロバクター感染症.小児科診療81 suppl : 118-120,2018
  4. 彦根麻由ほか:子どもの食中毒,小児科臨床67:2497-2502,2014

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坂本昌彦(さかもと・まさひこ)

 佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長
 2004年名古屋大学医学部卒。愛知県や福島県で勤務した後、12年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。13年、ネパールの病院で小児科医として勤務。14年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本国際小児保健学会に所属。日本小児科学会では小児救急委員、健やか親子21委員。小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。現在は、保護者の啓発と救急外来の負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務めている(同プロジェクトは18年度、キッズデザイン協議会会長賞、グッドデザイン賞を受賞)。

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