産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
新入社員、叱責されて「プチ引きこもり」、母から抗議電話が
部下を心配する気持ちと期待を伝える
課長: 昭夫さんが心配です。
母親: 叱られたことが一度もない子ですから、それは、それはショックで。褒められることには慣れていますが。叱られることはないから。
課長: 優秀な息子さんですよ。わが社に入社する人ですから。
母親: 入社して喜んでいました。がんばるぞ、希望した会社に入れたんだからって。頑張りすぎたのでしょうか?
課長: 一生懸命仕事をしています、期待の人材です。
母親: そう、そうでしょうね……。
課長: だから、私も戸惑っています。急に来なくなって。優秀な人だから余計に心配で。
母親: 心配いただき、嬉しいです。(少し間があり、考えながら) 実は息子には過敏な点がありまして。見かけほど明るくはないです。それで過剰反応したのか。親だから、子どもがかわいいから、息子の話だけで、電話でぶちまけました。
課長: お母様と、お話ができ、嬉しいです。
母親: 息子とも、もう一度話してみます。
課長: よろしく。お願いします。皆、彼を待っていますから。
母親: わかりました。
次の月曜日から出社してきた
次週の月曜日から出社してきました。課長は「やあ、よろしく」と言い、彼も「心配をかけましたが、よろしく」と応答のみで、働いています。
(課長の報告)
課長: おかげさまで、復帰してくれました。
私 : よかったですね。嬉しいですよ。
課長: だいたいこのような対応で、うまくいくのでしょうか?
私 : 私の経験では半々でしょう。半数は長引きます。
長引くケースが半数存在
課長: どこが違うのでしょうか? 今後のためにも、ポイントを教えてください。
私 : 長引くケースは二つ考えられます。一つ目は、本人の性格などから円滑な対人関係に向かない場合。ビジネスより研究者や芸術家に向いているタイプです。もう一つは、他の疾患がある時です。
課長: なんとなく、わかりますが。
私 : 対人関係に向かず、対人不信が強い場合は、「その根っこ」に母親との関係があります。養育過程で「基本的信頼感・安心感」を子どもに与えられなかった場合です。
課長:難しいですね。
浅い葛藤なので事実関係はスルーした
今回のケースにはうまく対応ができましたが、それはストレスが先輩のきつい注意だけで、精神的な葛藤が浅かったからです。だから母親との面談でも、職務範囲内の注意だったのか、それを逸脱していたのかというような事実関係を話題にせずにスルーして、「傾聴技法」と部下への期待を表明することに徹したわけです。元々母親には感情的なものがあるので、事実関係を話題にしても「職場VS部下・家族」という感情対立になって、こじれてしまいます。一見「プチ引きこもり」の様相を呈していても、様々な要因が絡み長期化するケースがあるので、専門医に相談していただくのが望ましいと思います。
最後に今回のまとめ・本音トークを図の「マコトの一言」で締めくくります。
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