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石飛幸三の『人生の最期をどう迎えるか』

コラム

「1日1500キロカロリー」は誰のため? 外科医だった私が「平穏死」を唱えたわけ

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「ただ命を延ばすことが本人のためか」と家族

 さらに、もう一人の入所者のご家族との出会いがありました。アルツハイマー病の奥さんを自宅で18年間介護してきたご主人が、自転車事故で介護が続けられなくなり、奥さんを芦花ホームに預けました。ホームでは一律の「1500キロカロリー」という数字にとらわれて、「しっかり食べて」と食事を口に入れていました。これだけの水分と栄養はどうしても必要だと、延命に精を出していたのです。

 そうした様子を見て、ご主人は入所者の家族会で言いました。「本人のためになっているのでしょうか」。奥さんが誤嚥して病院に運ばれ、医者から「胃ろうをつけましょう」と言われた時、ご主人は「ただ命の時間を延ばすことが、本人のためになるのでしょうか。何もしないで逝かせるのも、愛情ではないでしょうか」と言われました。

誰も言わなかったことを言おう……「平穏死」提唱へ

 私たちは本当の使命を見失っていました。坂を下っている人に医療を押しつけて、無理にまた坂を逆戻りさせるような苦痛を強いてきたのです。

 こうした経験を通して私は、今まで誰も言わなかったことを言わなければならないと自覚しました。医療で命を引き延ばせても、その人らしく生きていけないのならば、そんな医療を受けさせるのは間違いだ、医療を差し控えることも必要だ、と。それが「平穏死」の提唱につながったのです。

 誰にも死は平等に訪れます。最期に残された時間は、その人のもの。穏やかに、自由に過ごしていただきたいと思います。(連載終わり)(石飛幸三 特別養護老人ホーム常勤医)

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石飛幸三(いしとび・こうぞう)
 1935年、広島県生まれ。慶応大学医学部卒。ドイツのフェルディナント・ザウアーブルッフ記念病院、東京都済生会中央病院で血管外科医として勤務。プロ野球投手の手術も多く手がけた。2005年12月より、世田谷区立特別養護老人ホーム・芦花ホーム常勤医。10年に「平穏死」を提唱し、反響を呼ぶ。著書に「『平穏死』のすすめ 口から食べられなくなったらどうしますか」(講談社)、「『平穏死』という選択」(幻冬舎ルネッサンス新書)、「『平穏死』を受け入れるレッスン」(誠文堂新光社)、「穏やかな死のために 終の住処 芦花ホーム物語」(さくら舎)など。

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