鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」
死期が迫った患者と家族を前にして、どう振る舞えばいいかわからない……。医療現場に立つ看護師たちは、日々、難しい場面に遭遇します。忙しい業務に追われながらも、患者からは見えないところで、迷い、悩む看護師たちの姿から学べることは何か。聖路加国際大学教授で、生命倫理を研究する鶴若麻理さんが、医療の現実と生命倫理について、読者とともに考えていきます。
医療・健康・介護のコラム
なぜ胃ろう患者の「朝食」は午前4時なのか…効率求める病棟の「暗黙のルール」を考える
午前4時のモーニングケア
ある病院の循環器混合病棟の深夜1時。今日も、大きな手術を終えたばかりの患者が複数人いる。心不全で入院の患者は、トイレ介助のため、何度もナースコールを鳴らしている。夜勤の看護師は、日勤で働く看護師に引き継ぐ朝の8時までに必要な業務を終わらせなくてはならない。
いつものように、午前4時から、脳 梗塞 後に肺炎を起こし、意識障害のある胃ろうの患者(70歳女性)に栄養剤の注入を開始していく。こうして夜勤帯に「朝の分」を終わらせておけば、日勤の看護師にスムーズに引き継ぎができる。
前回のコラムで紹介したナラティヴライティング(臨床現場で違和感を覚えた場面での自分の感情を書いてみること)を、私は、いくつかの看護系大学院の授業で取り入れています。その中で、このような場面は、多少の状況の違いがあるにせよ、複数の看護師が記述しています。そして、「これでよいのだろうか?」と疑問を持っています。
例えば、「集中治療室(ICU)で人工呼吸器を装着している患者の清潔ケアを、午前4時から始めるのがルーチンになっている」と書いた看護師もいました。このように、特定の患者を、通常なら眠っているはずの時間帯にケアすることは、果たして患者にとってよいことなのでしょうか?
訴えることができない患者だから…
この場面に疑問を感じた看護師がその時の自分の思いを語り、いろいろなキャリアをもつ看護師同士で、気になることを自由に話し合っていくと、こうしたケースを生じさせている背景が見えてきました。
胃ろうとは、口から食事が取れない人のために、管で胃に直接栄養を入れることをいいます。なぜ、こうした患者のケアを、午前4時という時間帯に行うのか。それは、「自分たちの業務時間に合わせて都合よく対処できるのは、この 胃ろうの患者 だけ」「ナースコールを押すこともないから、 患者からの訴えはない 」という看護師の潜在意識です。
この70歳の女性患者にとって「胃ろうは必要であり」、また「意識障害がある」のも事実です。看護師として患者の状態を的確にとらえ、必要なケアを提供するのは言うまでもありません。ですが、患者を「胃ろう」という一つの側面のみでとらえる見方は、この70歳の女性の人となりや人生を尊重しているといえるでしょうか? このことが、特定の患者をいつも午前4時にケアをするような状況を生じやすくしていると感じました。
1 / 2
【関連記事】
やっぱりね
mars
忙しい、人数が少ないという場所も確かにある。だからといって、仕方がないで済ませていいのですか? 患者の尊厳が守られる何かしらの努力をしましたか?...
忙しい、人数が少ないという場所も確かにある。だからといって、仕方がないで済ませていいのですか? 患者の尊厳が守られる何かしらの努力をしましたか? 問題は、個別性を全く考慮せずに午前4時に経管をすることですよ。患者のことをちゃんと考えていますか? 私は現場の人間ですが、言われて当然のことだと思います。
つづきを読む
違反報告
ではどうやって
みかん
看護師を志した者として、人間の尊厳を大切にすることは当たり前だし、そうしたいですよ。でも、じゃあどうやって、この人数の配置、態勢で安全を確保しな...
看護師を志した者として、人間の尊厳を大切にすることは当たり前だし、そうしたいですよ。でも、じゃあどうやって、この人数の配置、態勢で安全を確保しながらするのか。人がいれば、経管でだって7時にやってあげたいし、入浴時の脱衣も浴室でしてあげたいけれど、人がいないんですよ。倫理が大切なのは、わかりますけど、それで危険にさらされる患者がいますよね。上の立場の人ならば、倫理を問うなら、看護態勢も一緒に問いかけてください。現場の職員の気持ちも考えていただきたい。
つづきを読む
違反報告
それは
るー
安全に時間内に全ての任務を終える為ですよね。逆算したらそうなる。 限られた時間で限られたスタッフ数で、 しかも大勢をみている。 食事は危険も伴い...
安全に時間内に全ての任務を終える為ですよね。逆算したらそうなる。
限られた時間で限られたスタッフ数で、
しかも大勢をみている。
食事は危険も伴いますから、
出来る限りの時間をかけ十分な注意が必要。
さらに転倒リスクを考えた見守り対応、
その他のケアやすべての業務から逆算したら、朝いちばんでまず、胃ろう注入を終わらせることになる。
その後の怒濤の慌ただしさを思えば、やれることを先にやり、身体をフリーにしておく。
動く人の見守りしながら業務しながら、後から胃ろう準備して注入をやる……なんて無理。
経口の方の食事を4時からにして胃ろうを7時からにするか、ということ。
現実のスタッフ数と夜勤業務量なら仕方がない。
誰も4時から胃ろうを良いとは思ってやってません。
つづきを読む
違反報告