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明るい性の診療室

妊娠・育児・性の悩み

射精は一日にしてならず

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今井伸(泌尿器科医)

 「おれはいつでも勃起しているみたいだ、勃起は好きだ、体じゅうに力が湧いてくるような気持だから好きなのだ、それに勃起した性器を見るのも好きだ」(大江健三郎『性的人間』新潮文庫の「セヴンティーン」より)

 勃起したペニス(男性器)の形をしたご神木をまつっている神社が全国各地にあるように、勃起は元気な男性の象徴、自信、心のよりどころと言っても過言ではないと思います。そして、多くの男性は思春期にお風呂場や自分の部屋で、勃起した自分の男性器と向き合っていたことと思います。「しょっちゅう勃起するのは異常ではないか」と悩みながら、夜な夜な自分の性器を観察し、マスターベーションを繰り返したかもしれません。

 この大切な思春期に、自分の性器の観察やマスターベーションをあまり経験せずに大人になる方々が少なからずいますが、大人になって困ることがあります。それは、性行為(セックス)をしてもちつ内で射精することができない「腟内射精障害」になりやすくなるのです。

 この腟内での射精ができない男性は意外に多く、僕が診療をしている病院では男性不妊の原因の約10%を占めています。精液を調べて異常がない場合、あとは射精さえできれば子供ができる可能性があります。僕たちは射精について指導し、相談者に訓練してもらうのですが、なかなか簡単には進みません。

試行錯誤をした日々

 本コラムで4月中旬に、一冊の「いやらしい」雑誌との出会いを書きましたが、最初のうち僕はこの雑誌を前にして、とてももやもやしているのに射精できませんでした。「射精できないと、将来、子供を作ることができない」という焦りもありました。

 どうやったら射精できるのかを友達に聞いたり本を読んだりして、勉強そっちのけで来る日も来る日も試行錯誤を繰り返しました。そして、適切なマスターベーションを習得して思うように射精ができるようになるまで半年以上かかりました。

 実をいうと、この射精がうまくできなかった日々のことは、泌尿器科医になって射精障害の診療を行うようになるまですっかり忘れていました。うまく射精できない患者さんに会い、射精の方法を説明しようとしているうちに思い出してきたのです。

適切でない習慣

 マスターベーションの経験が少なくても射精障害になりやすいのですが、腟内で射精できない男性の多くは、男性器を床や布団にこすりつけて刺激するなどの適切でないマスターベーションで射精する習慣を持っています。誰も教えてくれないため、適切でない方法で射精する習慣を身に付けてしまうのです。

 「男はみんな勃起したら射精するもの」「射精は自然にできるようになるもの」と思いがちですが、それは違います。射精は練習して習得する技術です。できるようになると忘れてしまいますが、箸を持ったり自転車に乗ったりする技術は、誰もが子供の頃に親たちから教わって習得します。射精も、多くの男性は僕と同じように、思春期に様々なところから情報を得ながら、試行錯誤を繰り返し、「自分で思うとおりに射精をコントロールする」という技術を身に付けます。「射精は一日にしてならず」といえます。

若者に正しい知識を

 男女問わず、ほとんどの人が一生のうちにマスターベーションや性行為を経験します。ご飯を食べたり眠ったりすることと同じくらい自然なことです。にもかかわらず、日本では性行為に関して教えることがタブー視され、若者は正しい知識を得る機会がほとんどありません。

 初めて射精が起こる思春期や、性欲が有り余っている10歳代に、正しい性の知識を得る機会を作る必要があると考えています。それが不妊に悩むカップルを少しでも減らすことにつながるのではないでしょうか。

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明るい性の診療室
大川玲子先生

大川玲子(おおかわ・れいこ)
千葉きぼーるクリニック婦人科医師
 1972年、千葉大学医学部卒業。同大助手、国立病院機構千葉医療センター(旧国立千葉病院)産婦人科医長などを経て、2013年から現職。日本性科学会理事長、NPO法人千葉性暴力被害支援センターちさと理事長。

今井伸(いまい・しん)
 聖隷浜松病院リプロダクションセンター長、総合性治療科部長
 1997年、島根医科大学(現・島根大学)卒業。島根大学助手、聖隷浜松病院泌尿器科主任医長などを経て、2019年4月から現職。日本性科学会幹事、日本性機能学会評議員、日本泌尿器科学会指導医、島根大学臨床教授。

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