文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

のぶさんのペイシェント・カフェ

コラム

ペイシェント・カフェ オープン

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

49歳男性、毎日が激務の私。職場近くにカフェができた

 毎日が激務の私。
 健康診断のたびに食事と運動を指導される。そんなことは頭でわかっているけど、目の前のやらねばならぬ仕事や家事。それに追われて、自分の身体を (いたわ) る時間を取る、いや、考える余裕もない。

 最近、オープンしたこの職場近くのカフェ。忙しい仕事の合間に、自分への褒美として顔を出すようになった。ここのマスターは、健康オタクらしく、カウンターのお客としているおしゃべりに耳を傾けるだけで、いつも何かの気づきがある。

 今日は、マスター自身の身体のことを話しているようだ。

生まれつきの病気? がんも2回経験してるんだって!?

 生まれつきの病気? にぶんせきつい? マスターには気づかれないように、そっとスマートフォンで検索してみた。「二分脊椎」。生まれつき、背骨の発育が悪くて、中枢神経系がうまく機能しないらしい。成長段階で下半身の発育がよくないのか。だから、歩き方が少し変わっているのだな。

 検索結果では、排せつ障害や頭に水が () まる病気を併発するって書かれているけど、マスターを見る限りではわからないなぁ。まぁ、病気があっても、普通に働いて、生活できるっていうことか。

 別の病気の話になった。がん? 精巣腫瘍?  睾丸(こうがん) にできるがんだな。もう、30年近くも前に発症したのか。当時の治療は大変だったらしい。がんは治るようになってきたと聞いてはいるけど、実際に彼はそのがんは治して、いまはほとんど影響のない毎日を過ごしているようだ。

 あ? もう一つ別のがんがあるの? 甲状腺がん? マスターは見た目40歳代。私とほぼ同じ年齢だと思うのだけど、この年齢で二つ目のがんになる人もいるのか。

 そもそも、甲状腺ってどこにある臓器だ? 検索してみよう。ほぉ。喉仏あたりに二つあるのか。マスターの喉元をよく見ると手術の痕がある。がんを取ったのだろう。耳元まで長く痕があるから、そちらまで転移していたのかな。甲状腺は、身体の新陳代謝を調節する甲状腺ホルモンをつくっているのか。マスターは、身体を成長させたり機能を維持したりする甲状腺を取ったので、毎日甲状腺ホルモンを薬で取っているらしい。

でも、マスター、元気だな。生き生きしているなぁ

 でも、マスター、元気だな。
 足腰が悪くても、がんがあっても、生き生きしているなぁ。
 「健康」ってなんだろう? 「元気」ってなんだろう?

 このカフェがオープンして間もないけど、どことなく () かれるのは、もしかしたら、この元気を分けてもらい、自分に健康を取り戻すためかもしれない。

 「いつもありがとうございます」
 マスターが水を足しに来た。足を引きずりながら。
 ちょっと勇気を出して、聞いてみるか。

 「マスターもいつも元気ですね?」
 「そうですか? 自分だとわからないですね。カフェをオープンさせてから、いろいろな方とお話しできるようになって、みなさんから元気を分けてもらっている感じですね」

 「元気」は 伝播(でんぱ) するらしい。いま、マスターの笑顔を見て、自分も少し元気になった。
 自分は健康診断で指摘されるぐらいの健康体だ。元気のはずだ。

 ふと思う。健康とは、なんなのだろうか? ちょっと宿題を出されたようだ。

 下町と言われる街の裏路地に、昭和と令和がうまく調和した落ち着く小さなカフェ。そこは、コーヒーを片手に、身体(からだ) を自分でメンテナンスする工夫やアイデアが得られる空間らしい。カフェの近所の会社に勤める49歳男性の私は、仕事の合間に立ち寄っては、オーナーの話に耳を傾けるのが、楽しみの一つになっている。

(※ このカフェは架空のものです)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

nobusan-patientcafe_eye02

のぶさんのペイシェント・カフェ

鈴木信行(すずき・のぶゆき)
患医ねっと代表。1969年、神奈川県生まれ。生まれつき二分脊椎の障害があり、20歳で精巣がんを発症、24歳で再発(寛解)。46歳の時には甲状腺がんを発症した。第一製薬(現・第一三共)の研究所に13年間勤務した後、退職。2011年に患医ねっとを設立し、より良い医療の実現を目指して患者と医療者をつなぐ活動に取り組んでいる。著書に「医者・病院・薬局 失敗しない選び方・考え方」(さくら舎)など。


のぶさんのペイシェント・カフェの一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、ヨミウリ・オンライン(YOL)、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事