山崎まゆみの「心もとろける癒やしの温泉」
医療・健康・介護のコラム
手術後の体も心もリフレッシュ! 私が過ごした夏の湯治(山梨・下部温泉)
「温泉に入っているから、山崎さんはいつも元気だね」
お会いする方に、いつもそう言われます。
そうなんです。温泉から力をもらっています。
ただ、こんな私にも婦人科の病気で入院手術の経験があります。2016年の初夏に完治しましたが、腹部には手術痕が15センチ残りました。
そこで、退院してから湯治を計画しました。温泉の効果を知るには、またとない絶好の機会です。体力も落ちた術後の体に、温泉がどのように作用するかも見どころです。
地上に湧いたばかりのフレッシュなお湯に
行き先に、山梨県下部温泉 古湯坊源泉館 を選んだ理由は、ご主人と女将から「退院したら、湯治においで」と連絡を頂いたこともありますが、なにより「お湯そのもの」でした。
源泉館には、武田信玄が川中島の戦いで負った傷を 癒 したと伝えられる大岩風呂があります。15畳ほどの湯船の底は板張りになっていて、板の隙間からこんこんと、お湯が 溢 れるように湧いています。地上に誕生したばかりの、湧きたてのフレッシュなお湯に浸かることができるなんて、「温泉大国日本」でも希少なお風呂です。私なんて踊り出したくなるほどうれしい入浴環境です。
1300年も前の「風土記」にもこの温泉が登場し、「湯が湧く所に湯船を作り、老いも若きも男も女も皆が和やかに入っていた」と記されています。
ここには日本の温泉の原風景があるのです。
泉質はアルカリ性単純温泉。透明できれいなお湯です。肌の角質や皮脂を落とす効果があり「美肌の湯」と言われる泉質ですが、源泉館では「傷の湯」とよばれています。
現在も大岩風呂は混浴で、身体を隠すガーゼ地の湯あみ着をつけて、見知らぬ人同士がおしゃべりしながら入っています。高齢のご夫婦が、互いをいたわり合いながら温泉に入る姿も見られます。
退院して、旅ができるまでに回復してから、私は、暑さが厳しい真夏に5泊6日の滞在湯治に向かいました。
源泉館に到着すると、ご主人から「1回1時間くらい入ったら休んでください。1日5回くらいを目安に。決して無理はしないでくださいね」と説明がありました。
案内していただいた部屋には、もう布団が敷かれていました。
源泉館には2種類の宿泊施設があります。2泊までは旅館棟、3泊以上は湯治棟に泊まることになります。湯治棟の客室は簡素ですが、地下に大岩風呂がありますので抜群の環境です。
お湯に浸かり、部屋で休む――、これを6日間、繰り返すことになります。
2種類のお風呂に入って昼寝。その気持ちいいこと!
旅の荷をほどき、一服してから、早速、1回目の入浴に行きました。
大岩風呂で、まず目に入るのが大きな湯船。入り口には、神棚があります。横には「神泉」と記してあります。ここで手を合わせ、拝んでから入るのです。
湯船は2種類あります。源泉のままのお風呂、それに42度に沸かしたお風呂です。
源泉湯の温度は30度~32度ほど。季節によって若干、湧出温度は変わりますが、足を入れると「ひやっ」と感じます。夏の盛りだというのに、身体を沈めた瞬間は、ぶるっと震えがきました。
他の湯治客を見ると、沸かした42度の温泉が注がれる湯船と源泉風呂を行き来しています。私も交互浴をしながら、冷たいお湯に身体を慣らしていきました。
最初の入浴は50分ほど。部屋に戻ると、文庫本を片手に、布団の上にごろんと横になりました。1ページも読まないうちに意識が遠のいていきました。
遠くから「み~ん」という 蝉 の音を聞きながら30分ほどの昼寝。これが気持ちのいいこと!ふーっ。
午後5時半になると、夕食のお膳が運ばれました。1時間近くの入浴後は、おなかが減ります。鶏肉南蛮漬け、ヤマメ刺し身、小鉢3品、温泉で炊いたご飯にみそ汁、果物。おひつに入っていたご飯を一粒も残さずに、夢中でたいらげました。
夕食後にはもう1回、今度は1時間強の入浴を。入浴の疲れもあってか、この晩はとても深い眠りに落ちました。
源泉館では毎晩、ご主人が湯を抜き、湯船を掃除します。それから岩の合間から湧く湯を一晩かけて湯船にためます。
加水や加温など、人の手が一切加えられていない32度の湧出温度そのままの状態で温泉が湯船を満たしています。
掃除が行き届いた湯船は、透明感のあるお湯を一層美しく見せます。
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