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ピック病(認知症)介護『父と私の事件簿』

介護・シニア

「運転はやめて」と言うと、免許証を抱えて布団にもぐった父…1年間に及ぶ格闘の結末は?

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 「危ないから運転はもうやめて。誰か、ましてや、ちっちゃな子供をひいたら、どうするの?」

 「運転は、やめないといったらやめない。自分のことは自分が一番わかっているから、ほっといてくれ」

 2017年12月、82歳で父が運転をやめるまでの数年間、何十回いや何百回、こういったやりとりを繰り返し、どなり合っただろう。高齢者の運転による事故が日々報道されているが、被害者の方のことはもちろん、両親や祖父母の運転をやめさせようとしている渦中の家族のことを思うと、自分たちが修羅場だった頃を思い出し、心臓がぎゅっとつかまれる気がする。

リタイア後、車で買い物に行くのが日課に

 教師だった父は、若い頃から無事故無違反。母が亡くなり、定年後の職場も退職した後は、部屋でテレビを見ることと、一日に何度も車でスーパーなどに買い物に出かけることが日課になっていた。父にとって、車は社会との接点であり、父にとって心のよりどころであったのは間違いない。

 そんな父の運転をやめさせなければと思ったのは、単に「高齢者だから」ではない。さまざまな異変があって、やむをえなかったからだ。それを本格的に決意したのは17年になってからだったが、その前から、叔母など父の車に乗った人から、「なんだか道がわからなくなってるみたい」と聞くようになった。本人に確認しても「そんなことあるわけない」と逆切れするだけで、「そろそろ運転をやめたら?」と言おうものなら、ひどい言い争いになるのが常だった。

 車に細かい傷ができていたり、割れたライトがテープでとめてあったのを見たりしたこともあったが、「もう限界!」と思ったのは、二つの事件からだ。

数十年前に引っ越した親戚宅を探し

 一つは16年の暮れ、父の兄のお通夜の日に起きた。私が会場に着くと、数時間前に車で出た父が、まだ来ていない。遅れて現れた父に聞くと、お通夜の前に兄の家に寄ろうとしたらしい。ところが、数十年も前に引っ越したことを忘れていて、今は存在しない家を探してぐるぐる回っていたことがわかった。「これは認知症だ」と思い、運転をやめるように妹夫婦からも言ってもらったが、本人は「平気だ」としか言わない。

 もう一つは、それから間もない17年の年明け。毎年、車で自宅からは少し遠い神社に初詣に出かけるのが習いの父が、いつもなら戻っている時間になっても、ちっとも帰ってこない。携帯に電話しても出ないので、警察に連絡しようか悩んでいたら、夕方になって帰宅した。ところが、外に出てみると、車がない。なんと神社からの帰り道、タイヤに異常があったので、とりあえず降りて、空いていた他人のお宅のガレージに置いてきたというではないか。すでにJAFを呼ぶという考えも浮かばないし、やってることがめちゃめちゃだ。運転自体も怖いが、車だと遠方で何をしているかわからないのも不安で、とにかく「絶対に今年は運転をやめさせる!」と誓った元旦であった。

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田中亜紀子(たなか・あきこ)
 1963年神奈川県鎌倉市生まれ。日本女子大学文学部国文学科卒業後、OLを経て、ライター。女性のライフスタイルや、仕事について取材・執筆。女性誌・総合誌などでは、芸能人・文化人のロングインタビューなども手がける。著書に「満足できない女たち アラフォーは何を求めているのか」(PHP新書)、「39.9歳お気楽シングル終焉記」(WAVE出版)。

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