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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

コラム

手足口病と書いて「てあしくちびょう」と読む。夏の幼児に多く

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英語の病名をそのまま日本語訳。「猫ひっかき病」だってあります

手足口病と書いて「てあしくちびょう」と読む。夏の幼児に多く

 手足口病という、何じゃそりゃ、な名前の病気があります。「てあしくちびょう」と読みます。覚えやすくていいですね。これくらい覚えやすい病気は、他に「猫ひっかき病」とか「もやもや病」とかあります。まじで医学用語です。猫ひっかき病は感染症なので、いずれこのコラムでも紹介しましょうね。

 さて、手足口病はhand-foot-and-mouth diseaseというそのまんまな英名の直訳です。いいですね。外国語の医学用語は日常用語をそのまま用いているものが多く、衒学げんがく的でないのがいい。日本語に訳すときもややこしくて難しい漢字にせずに、分かりやすい言葉のまま訳すのがかっこいい。ぼくはそう思います。これって医学のみならず、哲学とかでもよくある間違いですね。「弁証法」なんて小難しいこといわずに、「話し合い」にしときゃーよかったんです。

口蹄疫は動物の「足口病」だった!

 で、英語のhand-foot-and-mouth diseaseに似た名前で、foot-and-mouth diseaseというのがあります。これは人間の病気ではなく、動物の感染症です。なぜか「こうていえき」という小難しい名前がついています。いやですねー。コウテイエキって、精力増強栄養ドリンクみたいな名前をつけんでも、そのまま「足口病」にすればよかったのに。

 獣医学領域ではややこしい専門用語が多く、例えば、「豚コレラ」とか「豚丹毒」という病名があります。これはその名の通りブタさんの病気なのですが、なぜか「とんこれら」「とんたんどく」と読まなくてはいけません。どうしてわざわざ分かりにくい、しかも響きもよくない用語にするのかまったく理解できへん。

 ところで、昔この口蹄疫が九州地方で流行したとき(2010年)に「岩田先生、日本の口蹄疫対策をどう思いますか」と某メディアの方に尋ねられたことがあります。が、「ぼくは獣医学については完全に素人ですので、ノーコメントです」とコメントをお断りしました。動物の病気(感染症含む)は獣医学領域に属し、人間医学とは別物と考えています。そもそも、人間の世界では感染症が流行しても「屠殺とさつする」というオプションはありませんし(!!)。逆に、獣医学領域の微生物専門家でときどき人間の感染症についてコメントされているのを見ますが、しばしばピント外れですので、自領域の中途半端なアプリケーションには要注意です、自戒を込めて。

自然に治ることが多い。かなりまれだが、重症例も

 さて、手足口病に話を戻しますが、基本的には小さい子供の感染症です。大人でもなることありますが。夏に多い感染症で、ちょうど本稿執筆時点で報告数が増え始めているようです。

 原因はコクサッキーウイルスというウイルスです。これはウイルスが発見された場所が米国のコクサッキーだったことから命名されました。ちょっとややこしいのですが、コクサッキーウイルスはエンテロウイルスというウイルスのグループに属するウイルスです。エンテロ、というのは「腸」という意味の英語です。ちなみに「腸炎」は英語でenteritis、 エンテライティスといいます。-itisがつくと「炎症」を意味するのです。鼻炎はrhinitis、膀胱炎はcystitis、副鼻腔びくう炎はsinusitis、SNSでの炎上はSNSitis…とは言いませんが、まあ、そういうことです。要するに、エンテロウイルスの一部はコクサッキーウイルスというのです。他のエンテロウイルスの仲間もやはり手足口病を起こすことがあります。

 臨床症状はその名の通り、手と足と口に水ぶくれができて痛い、というのが特徴です。他の場所にも発疹はでます。例えば、おしりとか。熱はあまりでません。軽い病気で終わることが多いのですが、まれに脳に炎症を起こし…これはencephalitisといいますが…、死亡例もあります。が、これはめっちゃまれ。あと、心臓に炎症を起こすこともあります。これもかなりまれ(Chan KP, Goh KT, Chong CY, Teo ES, Lau G, Ling AE. Epidemic hand, foot and mouth disease caused by human enterovirus 71, Singapore. Emerging Infect Dis. 2003 Jan;9(1):78-85)。マレーシアやシンガポールで見つかるEV71というウルトラマンの故郷みたいな名前のウイルスで、こうした重症例がときどき起きています。

 手足口病は残念ながら、治療法もぱっとしたものはなく、予防法も確立されていません。学校保健安全法上での具体的な対策もなく、要は発症していても学校を休んだりはしなくてよいのです。

 手足口病を診断しても、自然に治ることが多くて特別な対策は必要ない(痛いときは痛み止め、かゆいときはかゆみ止めくらいです)。ただし、夏の脳炎、髄膜炎はけっこう手足口病の重症化だったりします。そういう目で夏の患者さんを診ることは大事ですね、医者的には。(岩田健太郎 感染症内科医)

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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1件 のコメント

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感染症の症状出現と重症化のプロセスを知る

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

こういうわかりやすい話を学生時代に聞きたかったです。 系統講義の出席率は高かったものの、睡眠率も高かったのは、あまりに学問的過ぎて面白くなかった...

こういうわかりやすい話を学生時代に聞きたかったです。
系統講義の出席率は高かったものの、睡眠率も高かったのは、あまりに学問的過ぎて面白くなかった授業が多かったせいもあります。
形式はその道のプロになるのには重要ですが、ハードルを上げることで多くの医師の記憶に残らないのでは勿体ないです。

こういう話を聞くと、改めて、ワクチン医療の意味を考えさせられます。
ワクチンと違い、弱毒化されていないウイルスが、免疫が十分でない子供たちに多くの軽症を警鐘として与え、時に重症化する現実を見せつけられる。
では、感染プロセス、体内での軽症出現から、重症発現までのルートおよび、その診断までの道のりを押さえれば、より多くの潜在的患児の予後が良くなります。

手足口病は軽症がひどい症状で無く、重症化がまれだからほおっておかれているということでしょう。

脳炎や髄膜炎は、ほかの頭痛に紛れがちですが、鑑別診断の中に入っていることを知っていれば、身体所見の取り方が多少下手でもフォローアップすることはできますね。

腹膜炎の筋性防御が筋肉の少ない高齢者では出ないことがあることが知られていますが、小児の診察は老人以上にコミュニケーションや所見とりに難渋する部分もあるので、疾患や診断に関する知識を多くの人が知って、振り分けがうまくいくといいですね。

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