田村専門委員の「まるごと医療」
医療・健康・介護のコラム
患者と医療にかかわる多職種が交流。カフェでフラットに語り合う。
「どうしてこんなに縦割りなの」
医療や福祉の現場では、医師や看護師以外にも、薬剤師、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、保健師、助産師、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど(これ以外にもたくさん)、様々な職種の人が働いている。だが、患者にとっては、それぞれの人がどんな役割を果たしているのかは、案外知られていない。また、医療職同士でも、他の職種の仕事内容について、実はよく理解されていない現状があるという。
「どうしてこんなに縦割りなのか、患者や多職種の医療者がもっとフラットに話せる関係をつくれないものか」。「患医ねっと」(東京)代表の鈴木信行さんが、脱サラして都内に開いたカフェで原則月1回、多職種の人々が語り合える会を始めたのは今から10年前のことだ。
「医療と福祉を語る会」と名付け、毎回異なるゲストスピーカーからの話題提供を受けて十数人の参加者がディスカッションする。参加者は医療職の人もいれば、医療とは関係ない「患者」の立場の人もいる。常連さん的な参加者もいる一方、ゲストスピーカーやテーマによって初めて参加する人も。カフェの経営は他人に譲った今も、「語る会」は変わらず同じ場所で続いている。
医療者、患者、行政マン、僧侶も
開催が先般100回を超えたのを記念し、「“大”医療と福祉を語る会」と題した会が6月23日、都内の大学の教室を借りて開かれ、これまでにゲストスピーカーを務めた人をはじめ約100人が参加した。
2部に分けたトークセッションでは地域での活動に取り組む医師や薬剤師、医療政策などに関わる研究者、行政マンや患者会の代表らが登壇。過去に何度かゲストスピーカーを務めた筆者も、当日は進行役としてお手伝いさせていただいた。
また、参加者によるポスター発表は、病院の理学療法士、薬局の薬剤師、介護のマイケアプラン作成の取り組み、患者や家族を支える団体の活動、食による学びの場づくり、音楽療法、がん経験者による写真展、僧侶による心のサポートと、会の趣旨通り、良い意味での「ごちゃまぜ感」あふれるものになった。
人と人とのつながりがつくる地域共生社会
少子高齢化を見据えて、国は「地域共生社会」の実現を政策に掲げている。制度や分野ごとの縦割りや「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が、「我が事」として参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えて「丸ごと」つながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会――というものだ。トークセッションの中では、地域共生社会に向けて、まさに住民を主体とした多職種の連携が重要だとの意見が発表された。
指針の策定に患者の参加を
先端医療の分野では、患者の遺伝子を解析することによって病気の治療や予防に役立てようとの研究が進む。だが、検査によって分かった遺伝情報をどのように取り扱うかは、倫理的な問題が大きく関わる。医療政策や指針を策定する際には、医療者側だけでなく患者側も参加する重要性や、そういった場で意見を伝えられる人材の育成が必要ではないかという意見も出された。
主催の「患医ねっと」代表の鈴木さんは、生まれつき二分脊椎症という障害があり、精巣がんと甲状腺がんという2度のがん闘病も経験。患者が望む、よりよい医療を実現するため、患者と医療者をつなぐ活動に取り組む。「語る会」はそんな活動の中の一つ。単なる意見発表の場というのではなく、会を通じて人と人がつながることに実は大きな意味があるという。約100人が集った23日の会でも、会場のあちこちで名刺を交換する光景が見られた。様々な職種や立場の人による新たなつながりが、また生まれた。(読売新聞専門委員 田村良彦)
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