陽子のシネマ・クローゼット
医療・健康・介護のコラム
平均年齢83歳のダンスグループに若者が大喝采!…『はじまりはヒップホップ』
壁を乗り越えつかんだ夢
世界大会の特別出演を狙うビリーは、大会本部に電話をかけ、「車椅子に乗っている最年長96歳のダンサーは、クランピング(腕などを激しく振る動き)が得意で……」と売り込む。だが本部のスタッフからは、「大事なのは、単に“老人が踊ってる”以上の見応えがあるかどうかだ」と要求される。
必死の練習を重ねて迎えた地区予選ではメイニーが先陣を切り、なんとも堂々とした老人たちの入場に、若い観客は拍手喝采。見事、世界大会への出演が認められたヒップ・オペレーション・クルーだが、乗り越えなくてはならない壁がまだあった。
全員がラスベガスに行くのに必要な10万米ドルを集めるためのスポンサー探しが難航。自分の健康や家族との関係など、長い人生を経たメンバーたちには守らねばならないものもある。もうすぐ手が届きそうな夢との間で、彼らは迷い、悩む。
世界大会が迫り、ビリーが一人ひとり参加の意思を確認する場面で、テリーは「もちろん、踊りながら死にたいと思ってた」と決意を見せた。また「保険はいらない、腎臓や心臓がヤラれても生きていれば十分よ」と発言する者も。渡航費を用意できず、参加を諦めようとした女性メンバーに、仲間たちが見せた友情。支え合う彼らの頼もしい姿は、まるで青春グラフィティーのワンシーンを見ているかのようなすがすがしさだ。
ダンスで伝える「人生まだ終わりじゃない」
13年8月、27人のメンバーが、世界大会が開かれるラスベガスに乗り込んだ。刺激的な都会で、誰もがはしゃぎながらも、徐々に高まっていく緊張感。そしてついにヒップ・オペレーション・クルーの出番の時がきた。舞台で踊る彼らの顔は、輝きに満ちている。若い世代が多くを占める観客席からは、建物を震わせるような大歓声が湧き起こる。一人ひとりが踊るヒップホップダンスから、「人生はまだ終わりじゃない、この先も輝く人生が待っている。それが生きるってこと」なのだと、メッセージを放つ。まさに、ニュージーランドの小さな島がアメリカを揺さぶる瞬間だった。
映画には登場しないが、その場に居合わせたヒップホップインターナショナルジャパン(HHI Japan)代表の佐々木恵美子氏は、「彼らが心からダンスを楽しんでいて、すてきな顔をして、自信たっぷりで、場内はとにかく盛り上がり感動の拍手が鳴りやみませんでした。これぞダンスのルーツを楽しむ原点! あまりの衝撃に、子供たちは開いた口がふさがりませんでした。テクニックのジャッジではなく、ヒップホップがいかに楽しいか、いかに生活に根付いているか、どれだけダンスが好きか、だと思い知らされます。感動で目頭が熱くなりました」とたたえている。
「ひ孫世代」と結んだ絆
この映画のもう一つの見所が、世代間交流だ。地区予選を前に訪れたオークランドのデザイア・ダンス・アカデミーでダンスを披露すると、10代を中心とするヒップホップダンサーたちがまさかの拍手喝采で迎えてくれた。アカデミーのダンサーたちを率いるTJ・ファーティーテは、「老人といえば、いつも不機嫌で俺たちを目の敵にしてくる存在だったが、このクルーの皆さんが、イメージを変えてくれた。ヒップホップにも新しい風を吹き込んだね」と、懐を開いて歩み寄った。
優れたダンサーとの世代を超えた交流が刺激となり、ヒップ・オペレーションのメンバーの表情にも“覚悟”が生まれた。この出会いがなければ、地区予選で最上のパフォーマンスを披露して、世界大会に進出することはできなかったかもしれない。曽祖父母とひ孫ほども離れた世代が、垣根を越えて絆を結び、互いに高め合う姿は、路上から生まれたヒップホップにこそふさわしいともいえるのではないか。
目を転じれば、少子高齢化が進む我が国。この映画には、多世代の共生と地域の環境づくりのヒントが詰まっているような気がする。
わたくしも、16年夏の日本公開に合わせたメンバー招請に携わることができ、誇りに思う。ただ、ラスベガスの感動の場面を、現地で共有できなかったことが残念でしかたがない。(小川陽子 医療ジャーナリスト)
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