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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

日本の障害年金の不公平性の要因…欧米と異なる認定の重点!?

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日本の障害年金の不公平性の要因…欧米と異なる認定の重点!?

 流通経済大学准教授の百瀬優さんの講演「国際比較・歴史的考察・統計調査から見る日本の障害年金の実情と課題」を先日、聴講し、いくつか考えるところがありました。

 国際比較の対象は、米、英、伊、独、仏とスウェーデン(以下、欧米先進国)でした。日本では、視力・視野や聴覚の計測値、病気や臓器ごとに検査結果の数値が、障害の有無や程度判定のために細かく決められています。これに対し、欧米先進国は、医学的数値よりも、労働・サービスの提供によって収入を得る「稼得活動」の可否や難易度に認定の重点を置いているのが、大きな違いです。

 日本では、医学的判断が上位にある、と百瀬さんは述べました。でも、医学的判断というより、「数値の細かな基準」が判断の唯一とも言えるよりどころになっている場合が大半です。

 典型的な単一の障害がある場合はそれでよいでしょうが、現代の医学でも明確な病名がつけられない例や、複合的な障害や病を持つ例では、“数値至上主義”はかえって不公平な結果を招いています。

 私の扱う領域で言えば、視力や視野検査では表現されない、眼球使用困難症候群がその好例です。

 ここに、ある眼使用困難症候群の人がいます。この方は、視力を検査すればほぼ健常です。ところが、まぶしく感じる中、我慢して検査を続けていると、めまいや、吐き気がし、ついにはうずくまってしまいます。休み休みようやく家にたどり着いても、1週間はほとんど起き上がれなくなりました。しかし、診断書に表れる視力は、我慢して測定された視力であり、その後に生じた不調のことは表現されません。その結果、障害年金は非該当になります。

 眼球だけの病気による全盲の方と比較してみましょう。この人は、法的な救済を受け、障害枠で雇用される可能性があります。

 先の眼球使用困難症候群の方がこう言いました。

 「全く見えない視覚障害者でも、寝込むことはないから労働の継続は可能でしょう。私は瞬発力としての視力は良くても、一定時間以上続けて使えば寝込まざるを得ないので、通常の労働は不可能なのです」

 しかも健常者枠の雇用ですし、休み休み仕事をしてよいなどという配慮が一律にされるわけがありません。

 ところで、欧米先進国のような稼得力を第三者が判断する場合、主観が入るだろう、不正をする人がいるだろうという議論が、日本ではよく出てきます。そういう意見が、救済すべき人を救済できない不平等を作る要因となってはいけません、欧米先進国に学んで、主観、不正の混入を最小限にする工夫をすればいいだけの話なのです。

 この勉強会で、もう一つ知った大きな課題があります。国は、将来の老齢年金や遺族年金の在り方について専門家などと議論し始めているそうです。ですが、ここに障害年金の話題は、国からも専門家からもほとんど出ないに等しいとのことです。

 障害者も老齢化し、遺族にもなります。見方によっては、彼らは社会の最弱者と言えます。

 このコラムで2回にわたってみてきたように、日本の障害年金には不公平な部分、救済すべき人が救済されていない欠点があるのが実態です。社会の最弱者でもある人たちの、重要なよりどころたる障害年金の課題を議論する優先順位は高いはずだと思うのですが、いかがでしょう。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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