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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

相談の多い障害年金とその矛盾…門前払い、足し算の欠如!?

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相談の多い障害年金とその矛盾…門前払い、足し算の欠如!?

 私が関わる「NPO法人 目と心の健康相談室」には、視覚障害に伴う障害年金受給資格に関する質問や、問い合わせが少なくありません。

 障害年金の診断書を作成するという作業は、医師の大事な役割の一つであるにもかかわらず、私自身も以前は表面的なことしか知りませんでした。その後、多くのケースで診断書作成に関わり、また相談を受ける機会が増えるにつれて、この制度の問題点や矛盾点がいろいろ認識されるようになりました。

 障害年金の申請には、その障害となる病気で最初にかかった医療機関の初診日を特定する必要があります。

 いろいろな事情で眼科の定期的健康診断を受けていない人は少なくないでしょう。仕事や身辺のことで忙しく、少々のことでは医療機関に行かない、あるいは行けなかったという人は多いはずです。もう何年も前に視野障害、視力障害が生じていて、とっくに法的な視覚障害者になっていただろうと思われる方が、やっと初診に訪れていたなどというケースもあるのです。

 多くの緑内障や、網膜疾患の一部はとてもゆっくり進行します。また、片眼だけが徐々に進むような場合は、他眼がいつの間にかうまくカバーします。このため症状が自覚しづらいこともよくあります。

 仮に医療機関にかかったことがあっても、何年も、何十年も前のことなど、記録にも記憶にも残っていないこともあるでしょう。

 そのほか、私がよく出合う例は以下のような場合で、こんな時、初診日が分からないからといって申請前に門前払いされるなど、もってのほかだと思います。

 〈1〉将来、何年かたって障害となる症状だとは思いもよらなかった

 〈2〉診断が正しくなかった、あるいは「気のせいだ」といい加減にあしらわれたので、以来、医療不信、医師嫌いになった

 〈3〉医学が進んで、当時分からなかった病気が診断できるようになった

 〈4〉何度も転居し、あるいは複数の医療機関にかかっているため、どれが初診か分からない

 〈5〉症状が、目だけでなく、心身の各部に及ぶ全身病なので、眼科は受診していなかった

 〈6〉医療機関は分かるが、現在は存在しない。また、存在してもカルテがない(カルテの法的保存期間は5年)

 もう一つ、相談者の話を聞いていて、大きな矛盾があると思うことを挙げましょう。 それは障害が重複している場合です。たとえば、視覚障害と精神障害が併存していれば、一般に、労働によって収入を得る力「稼得力」は単一の障害より低下しますが、足し算はされません。もし、どちらの障害も、障害者になるかならないかのボーダーライン上にあるとしても、両者があれば当然「障害者」と認定していいはずなのに、現行制度にそういう考慮はないのです。

 このように、現行の障害年金の制度は、患者(国民)本位になっていないなと痛感していたところ、「障害年金法研究会」という勉強会で、その国際比較、歴史的考察についての講演を聞く機会がありました。そこで明らかにされた問題点を次回、取り上げます。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」(青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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