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明るい性の診療室

医療・健康・介護のコラム

挿入障害はメンタルな疾患

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大川玲子(婦人科医)

 性生活の悩みを女性の視点で描いた小説「夫のちんぽが入らない」(扶桑社)が2年前にヒットしました。思い切ったタイトルで、著者も悩んだ末に選んだそうですが、婦人科医でセックス・セラピストの筆者が最も多く診る性機能障害が、パートナーの男性器がちつに入らない、この「挿入障害」です。

 挿入(性交)できない障害は男女どちらにもあります。ただ、男性の「勃起障害」はもちろん挿入できないのですが、医学用語での「挿入障害」は女性の疾患を指します。

 相談に来たカップルの抱える問題は「入らない」ことで、男性・女性どちらが原因かはっきりしない場合に加え、双方に問題があることも少なくありません。セックス・セラピーではそうした状況も念頭に置いて診療しますが、今回は女性に焦点を当てましょう。

 女性の「挿入障害」とはどのようなものでしょうか。

 米国精神医学会の分類では、「骨盤・性器の疼痛とうつうと挿入の障害」に、①性交はできるけれども痛い「性的疼痛」と②不安や恐怖のために挿入できない「挿入障害」があります。挿入障害は以前「腟痙攣けいれん(ワギニスムス)」とも呼ばれました。

 性的疼痛には、セックスを思い浮かべるだけで痛くなる精神的疾患も含まれますが、多くは閉経後の腟の乾燥、骨盤内の疾患のような体の問題で起きます。これには婦人科疾患として投薬や手術などの治療を行います。

無意識にこわばる体

 一方、挿入障害は基本的に心因性の疾患です。体の問題はないのに挿入ができません。相談者に共通している不安は、処女膜は最初の性行為で破れるという、5月上旬に本コラムで取り上げた「処女膜神話」へのとらわれです。この不正確な情報が、女性たちに「性交は痛い」「出血するほどの痛み」と恐怖感を抱かせています。

 この結果、女性は性交しようとすると骨盤底筋、特に腟周囲の筋肉を意思とは無関係に収縮させ、腟を閉じてしまいます。無意識の力というのは強いもので、女性が仮に「力ずくでも入れてほしい」と思っても、実際は足を閉じ全身で抵抗するので、挿入はできません。挿入以外の性行為も嫌という人がいますが、「挿入障害」の多くは、キスやハグ、性器を含めた互いの愛撫(あいぶ)はするのに、腟に触れられそうになると突然、体をこわばらせてしまいます。

 医師らセックス・セラピストは、科学的情報、つまり性行為の際の通常の体の反応や、不安や恐怖が挿入を妨げる仕組みなどを説明し、カウンセリングしつつ治療を進めます。性機能障害の治療の中心は行動療法といって、苦手な行為を少しずつ練習して、抵抗感を減らしていきます。

 挿入障害の場合は、「自分の性器を鏡で見てみる」「自分の手で性器を触ってみる」「腟の中に、指やタンポン、練習用の器具などを入れてみる」と段階を踏んで、目標であるパートナーの性器挿入に近づいていきます。腟は無理やり挿入したり広げたりするものではなく、リラックスすれば容易に男性器くらいのものなら(大きさによらず)受け入れるものなのです。女性が性的に興奮して腟が潤えば一層容易です。

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明るい性の診療室
大川玲子先生

大川玲子(おおかわ・れいこ)
千葉きぼーるクリニック婦人科医師
 1972年、千葉大学医学部卒業。同大助手、国立病院機構千葉医療センター(旧国立千葉病院)産婦人科医長などを経て、2013年から現職。日本性科学会理事長、NPO法人千葉性暴力被害支援センターちさと理事長。

今井伸(いまい・しん)
 聖隷浜松病院リプロダクションセンター長、総合性治療科部長
 1997年、島根医科大学(現・島根大学)卒業。島根大学助手、聖隷浜松病院泌尿器科主任医長などを経て、2019年4月から現職。日本性科学会幹事、日本性機能学会評議員、日本泌尿器科学会指導医、島根大学臨床教授。

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