田村専門委員の「まるごと医療」
医療・健康・介護のコラム
G20大阪サミットで注目…ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)って何?
UHCをご存じだろうか。
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage)の略で、「すべての人々が適切な予防、治療、リハビリ、緩和ケア等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」と定義されている。
世界各国が達成すべき「持続可能な開発目標(SDGs)」のひとつとして、2015年の国連総会で位置づけられた。
6月28、29日に開催されるG20大阪サミット(金融・世界経済に関する首脳会合)でも、重点課題の一つとしてUHCの達成が取り上げられる予定になっている。
国民皆保険制度を確立、世界の「優等生」の日本
G20大阪サミットを目前に控えた6月13、14の両日、東京都内で、日本医師会と世界医師会共催による「ヘルス・プロフェッショナル・ミーティング2019」が開かれた。日本をはじめアジアやアフリカ、欧米諸国の医師会の代表のほか、WHO(世界保健機関)や赤十字国際委員会、医療に関する国際NGO(非政府組織)などが参加。UHC達成に向けた現状や課題について議論した。
日本は、50年以上も前の1961年に公的医療保険制度ができて、国民皆保険制度が整備された。いわば、UHCの優等生だ。国民だれもが少ない自己負担で、原則自由に医療機関にかかることができる。地域による医師偏在の格差や2025年問題など様々な課題は抱えているとは言え、保健医療のシステムとしては確立されている。しかし、日本のような国は、世界からみれば例外といって良い。会議を通じて浮き彫りにされたのは、一口にUHCとはいっても、その置かれた状況には国々によって大きな違いがあることだ。
感染症の拡大、貧困、そして政治の腐敗
WHOなどによると、世界の人口の少なくとも半分(約35億人)が、十分な医療サービスを受けることができていない。約1億人の人々は、医療費の負担のために貧困へと追いやられている。また、8億人以上の人々が家計の少なくとも10%以上を医療費のために支出している。
会議の登壇者からは、結核をはじめとする感染症の流行や、エボラ出血熱などの新興感染症対策、それに対応するための保健医療の人材不足や資金不足などの課題が次々と提示された。
議論の中でも印象的だったのは、UHCの推進を阻害する大きな要因として、国家の腐敗や汚職の問題を訴える声が、途上国などの参加者から次々に上がったことだ。「支援の医薬品があっても、政治の腐敗のために貧しい人の元へ届かない」という。「腐敗は絶対容赦しない」との意見が出ると、参加者からは拍手が起こった。
会議は、G20大阪サミットへ向けて、各国がUHCの達成に向けて取り組むことへの期待を表明する宣言を採択して終了した。
G20大阪サミットの重点議題に
G20大阪サミットでは、議長国の重点分野として、(1)UHCの達成に加え、(2)高齢化への対応、(3)薬剤耐性問題を含む健康危機の管理の三つについて、技術革新の活用など日本独自の視点も加えつつ議論される見通しだ。世界的な視点で専門的な議論を深める観点から、WHOをG20大阪サミットの招待国際機関としているほか、財務大臣、保健大臣合同セッションを開催。また、10月には、岡山市で保健大臣会合が開かれ、UHC達成に向けた議論が進められる予定だ。
国連では2030年を目標として、世界がUHCを達成するための取り組みを進めている。国民皆保険制度という世界に誇るUHCを達成している日本として、推進に向けたリーダーシップが期待される。(田村良彦 読売新聞専門委員)
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日本が優等生と言っても、読売新聞などでも取り上げられてきたように、診断に治療に問題は沢山あって、なかなか進みません。 それでもまだましというのが...
日本が優等生と言っても、読売新聞などでも取り上げられてきたように、診断に治療に問題は沢山あって、なかなか進みません。
それでもまだましというのが、医療という産業が国力ベースの第3次産業であることを示唆しています。
実行性か、クリーンさか、いたちごっこは続きそうですね。
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