産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
嫌いな人は自分の鏡
勤務先の販売会社で受けた「ストレスチェック」で、「高ストレス者」と判断された28歳の小川恵子さん(仮名)は、産業医面談に訪れました。
彼女は短大卒業後に入社、8年目の社員。営業部販売課で仕事をしています。明るく笑顔が多いタイプですが、同僚であるひとつ下の宮本美江さん(仮名)が、気になって仕方がありません。
「彼女がひどく私を嫌っている。美江さんの言葉やしぐさからわかる」「私と会うと、いつも嫌な顔で避けられている」。そんなお悩みです。思い余って相談した同僚2人は、「そんなことはないよ」「思い過ごしじゃない?」と言うのですが、「私はシンドイです」。
「私は同僚に嫌われている」

夏目: 産業医の夏目です。「高ストレス」でしたね。悩んでいるのは?
恵子さん: 同じ営業部の同僚とうまくいきません。私をひどく嫌っていて。露骨に。なぜだろうかと考えるのですが、思い当たりません。それが続くのでむかつく。何とかしてください。
夏目: そうですか。
恵子さん: 理由がわからないからつらい、むかつく。
夏目: 同僚はどう見ていますか。
恵子さん: ピンと来ていないみたい。「そんなふうには見えない」と言います。
夏目: そう見ては、いないのですね。
同僚は根暗で笑顔がない
恵子さん: 彼女は陰湿だから。わからないようにするのよ。美江は笑顔がないんだ。根暗だよ。顔をよく合わせるし、仕事も一緒にするから、つらい。
夏目: そうですか。
恵子さん: 私も暗いと言われたことがある。明るく見えるように笑顔を気にするようになったよ。
夏目: 恵子さんも、美江さんと同じような印象を与えていたの?
恵子さん: 間違い。暗いと言われたことはない。取り消し。
夏目: そうかなぁ。
恵子さん: 言い間違い。
「言い間違い」に無意識が表れる
恵子さんは、かつて自分も、「暗い」と言われたことを話し出し、すぐに否定しました。専門的に見ると、こうした「言い間違い」に心を理解する鍵が潜んでいます。
<感情の高ぶりが静まるのを待って>
夏目: 「精神分析学」では、人には「日常生活に対応していくゾーン」「何かあれば思い出す潜在意識」「自分ではわからない無意識の世界」の三つのゾーンがあるとしています。理論ですよ。その中でも「無意識の世界」の力は大きい。
恵子さん: 三つのゾーンね。
夏目: <図のようなイラストを描いて説明しました>
右側が恵子さんです。ハートが「無意識の世界」で、そこには、「いまの自分」と「嫌いな自分(影)」の二つがありますね。
抑圧された「嫌いな自分」を知ること
夏目: あなたにとっての「嫌いな自分」とは、「根暗で笑顔がない自分」です。あなたは、それを自分の意識から隠したのでしょう。ユング博士は、それを「影(シャドー)」と名付けています。「影」を「無意識の世界」に閉じ込めてしまうわけです。専門的に「抑圧」と言いますが、そうなれば、「嫌いな自分」を忘れることができます。
恵子さん: エーッ、何を言われているかわからない。
<動揺しているので、時間をとりました>
夏目: 専門的な説明ですからね。難しいですが、聞いてくださいね。ユング博士の有名な「影と投影」理論で、あなたの悩みは解明できますよ。
恵子さん: 「影」「投影」、わからない。
夏目: 肝心なところなので説明させてください。あなたが、美江さんと接触すると、その言動で、ハートの左側の「嫌いな自分」が刺激されます。彼女の言動は、映し出された「嫌いな自分」です。
<難しい理論なので、繰り返し説明しながら、理解を待ちます>
美江さんはあなたの嫌いな部分を映す鏡なのですよ。専門的には「投影」と呼ばれています。
恵子さん: 専門的な言葉で丸め込まれる感じがする。
夏目: 次回にしましょう。描いたものを持って帰ってください。落ち着いてから、読んでくださいね。
2回目の面談では、初回の「影と投影」理論をもう一度説明し、恵子さんの疑問に答えました。整理する時間が必要と言われましたので、次回にしましょうと提案しました。
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