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訪問診療にできること~最期まで人生を楽しく生き切る~

介護・シニア

88歳の女性が医師の処方通りに大量の薬を飲んで救急搬送

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薬は基本的には“毒”

 薬は基本的には「毒」です。適切に使えば、病気の治療や症状の緩和に役立ちますが、一方で、有害な作用(副作用や過剰作用)の危険が常に伴います。メリットとデメリットを常に比較しながら、できるだけ少ない量をできるだけ短い期間、服用するのが薬の正しい使い方です。
 高齢者の場合、治療効果が出にくい一方で、有害作用が発生しやすく、薬の使い方には特に留意が必要です。
 今回は、高齢者の病気の特性と治療の考え方についてご説明したいと思います。

<1>内服薬はできれば5種類まで

 高齢者は病気をたくさん持っています。それぞれの病気を治療しようとすれば、たくさんの薬が必要になります。しかし、高齢になると薬を代謝する肝臓や腎臓の機能が低下していきます。結果として、薬が効き過ぎ、副作用が発生しやすくなります。
 また、ある病気の治療が、他の病気を悪化させるということも起こる可能性があります。循環器の治療薬が消化器症状を悪化させたり、消化器症状を緩和するための治療薬が認知機能を低下させたり、薬の副作用による悪循環が起こりやすくなるのです。
 例えば、高齢者の転倒の40%には薬が関与しているといわれていますが、薬による転倒のリスクは、内服薬が5種類を超えたところから急増します。 誤嚥(ごえん) や認知機能の低下など、転倒以外の多剤併用のリスクも、やはり5種類を超えたところから急激に上昇することが知られています。「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉の通り、薬の投薬は最小限に抑えるべきです。

<2>糖尿病や高血圧など生活習慣病の治療は控えめに

 加齢に伴い、生活習慣病の 罹患(りかん) 率は上昇していきます。高血圧や高血糖は、動脈硬化の進行を加速させ、脳梗塞や心筋梗塞のリスクになります。だから、血圧や血糖をしっかり下げて、動脈硬化の病的な進行を抑制することはとても重要です。
 一方で高齢者は 脆弱(ぜいじゃく) です。降圧薬で血圧が下がり過ぎると、めまいやふらつきを起こし、転倒や骨折のリスクになります。血糖が下がり過ぎると、転倒や誤嚥、そして認知機能の低下が加速することがわかっています。
 動脈硬化は血管の老化現象でもあります。年をとればだれもが動脈硬化になります。すでに動脈硬化が進んでしまっている高齢者の生活習慣病を、どこまで病気として治療をする必要があるのでしょうか?
 実は高齢者の生活習慣病治療のガイドラインは、若い人に比べて大らかな数値が設定されています。また、米国では、80歳を超えると生活習慣病の治療は必要ない(予後を左右しない)という意見もあります。個人差はありますが、足腰が弱ってきた、認知機能が低下してきた、などの「脆弱性」が目立つ高齢者には厳格な治療はしないほうがよいというのが高齢者医療の常識となりつつあります。

<3>薬はちゃんと飲めなければ意味がない。

 薬は処方してもらっただけでは治療になりません。それをきちんと服用し、きちんと吸収され、そして患部に届いて、初めて治療になります。しかし、外来では「きちんと飲めているか」まで追跡できないことが大部分です。薬が飲めていないのに(ほとんどの患者さんは医師に薬をきちんと飲んでいると答えます)薬の効果が不十分であると医師が誤解し、さらに薬を増やされてしまう、ということも少なくありません。
 きちんと薬を飲んでいただくために一番確実なのは、服用回数と薬剤数を減らすこと。確実に飲める(飲んだことを確認できる)タイミングに集約すべきです。多くの薬には徐放タイプ(長く効く薬)があり、このタイプなら1日1回ですみます。きちんと治療するために1日3回の服用を指示しても、結局1回しか飲めていない、ということであれば、効き目が多少落ちたとしても、1日1回の治療を最初から計画したほうが、より安全で確実な治療が提供できる、ということになります。

高齢者は個別の病気を治療するのではなく……

 高齢者の薬物療法においては「一つひとつの病気を丁寧に治療する」ことよりも、「たくさんの病気をもったその人を最小限のリスクで治療する」という考え方がより重要になってきます。
 どのような治療が最適なのか、その人の生活能力・認知機能を考慮しながら、そして残りの人生の長さや、本人や家族の思いなども総合的に勘案しながら、検討していく必要があります。(佐々木淳 訪問診療医)

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sasaki-jun_prof

佐々木淳(ささき・じゅん)

 医療法人社団悠翔会理事長・診療部長。1973年生まれ。筑波大医学専門学群卒。三井記念病院内科、消化器内科で勤務。井口病院(東京・足立区)副院長、金町中央病院(同・葛飾区)透析センター長を経て2006年MRCビルクリニック(在宅療養支援診療所)設立。2008年、団体名を悠翔会に改称。首都圏12か所で在宅療養支援診療所を運営する。

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3件 のコメント

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利権と情報共有と医療外の政治経済への波及

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

コメント欄はまさにその通りですが、難しいのが、地域のインフラや医療機器や医療レベルのまだら更新の問題、患者サイドや医師サイドの認識や意識のバラン...

コメント欄はまさにその通りですが、難しいのが、地域のインフラや医療機器や医療レベルのまだら更新の問題、患者サイドや医師サイドの認識や意識のバランスの兼ね合い、医療訴訟に絡む政治的な問題。
病院の建て替えは保険収入を原資になされることが多いでしょうが、建て替えで仕事を受注するのは建築やその材料の商売で、さらに不動産業界が絡みます。

結局、食物連鎖みたいな構造の一点だけで修正がうまくいくとは限りません。
かつて、中国の指導者がスズメ狩りを行って、全国的な飢饉に見舞われた例もありますが、今あるものを維持しながら作り替えていく難しさがあります。

おそらく、都心部など、ホテルに売り渡した方が病院単体の経営的には良いでしょう。(しかし、急変時の病院対応が不動産価値や外交価値を動かす。)
あるいは、今後は自由診療や混合診療の内訳が大きくなるのかもしれません。

変化が一気に進めば産業革命の時のラッタイト運動などのような多くの人間に痛みを強いることになります。
受け皿を用意しながら、時代の変化を受け容れていく必要があります。

その利権が正義か悪かだけではなく、実効性のあるサービスと資金の流通を生むように市民も学習していく必要があるでしょう。

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利権と情報共有

ぺったらぺたらこ

ポリファーマシーに限らず患者の情報が患者のものではなく医師や医療機関の所有物となって有効活用されていないという現状がある。 調剤薬局ごとに薬手帳...

ポリファーマシーに限らず患者の情報が患者のものではなく医師や医療機関の所有物となって有効活用されていないという現状がある。
調剤薬局ごとに薬手帳を作り、医療機関ごとにX線写真を撮って患者の曝露量を増やす。
処方、X線、断層画像などを一元的に管理するのは技術的に簡単なのに、それを阻止しているのは医療業界の利権維持以外の何者でもない。

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投薬問題の点と線 政治経済との複合問題

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

ポリファーマシーの問題は難しいですね。 各科医の意見とメンツが交錯しますので。 一般の方の場合、検査や診断よりも手術や投薬といった治療をありがた...

ポリファーマシーの問題は難しいですね。
各科医の意見とメンツが交錯しますので。
一般の方の場合、検査や診断よりも手術や投薬といった治療をありがたがる傾向にあり、社会的にも問題が発生します。
もっとも、高齢者のみならず、慢性疾患の経過観察と投薬という目線の方がより適切でしょう。
若者の多くは短時間の薬剤投与で済む場合が多いため問題になりにくいだけです。

そして、本文にももう一つ重要な指摘があって、多少飲み忘れていることでバランスが保たれていた、と言うことです。
そういうアナログに行われる人間的なバランス感覚を無駄と捉えるか否か?
個人やクリニックの無駄の一言では片づけられない、人間的な、社会的な問題が存在します。

特定地域の違法投薬や転売のニュースを見るとみんな怒ります。
ところが、自分の身の回りの問題やその構造問題を考えれば、本当に難しいことがわかります。
ことは医療の問題だけではありませんから。

国公立病院が独立行政法人化してから、医者の基準が経済側にシフトしました。
そういった部分も含めて、様々な問題は複合的に処理しないといけないことが浮き彫りになってきていると思います。

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