うんこで救える命がある 石井洋介
医療・健康・介護のコラム
スマホゲームで大腸がんの早期発見を目指す

僕はこれまで、消化器外科医として大腸がんをはじめとする多くの消化器の病気の手術をしてきました。しかし、手術した時点では既にがんが進行していて、どうしても助けられない患者さんと接したことも少なくありませんでした。外科医としていくら腕を磨いても、無力な時があるということを痛感しました。
病気は、日常生活を送る中で静かに進行しています。特に大腸がんは通称「Silent Killer(サイレントキラー)」と呼ばれ、進行するまで症状が出ないといわれています。一方で、皆さんが病気に関する情報を調べようとするのは、自身や身近な人に症状が出た時ではないでしょうか。
外科医が病院で患者さんとコミュニケーションを取れるのは、病気が見つかって患者さんが入院し、手術を経て退院するまでの非常に短い時間です。
僕は、病気が進行する前に患者さん自身が日常の暮らしの中で異変に気付いたり、普段から自分の体に興味を持ってもらったりするには、どうしたらいいのか考えてきました。しかし、症状が出るまでは自分が病気であるという自覚を持てないし、医療の情報は小難しくて手に取りにくいものが多い――という問題意識を持っていました。
拡散されやすいバズワードから発想
大腸がんの症状が出るのは、どこからかご存じでしょうか。最初に症状が出るのは「うんこ」なのです。大腸がんに限らず、大腸に起こる疾患の多くは「排便」から異常が表れます。「せめて、このことを少しでも多くの人に知ってもらいたい」と僕が考えていた時、「『うんこ』と『おっぱい』はバズワードだ」という言葉を耳にしました。バズワードとは、SNS上で拡散される力が強い言葉のことです。
そこで思いついたのが、「うんこ」という言葉を利用したコンテンツを作成することで、より多くの人に大腸がんをはじめとする消化器の病気の情報を伝えられるのではないか、ということでした。エンジニアやイラストレーター、声優、ミュージシャンなどの多くの仲間たちと話し合い、生活に身近なスマートフォンで遊べるゲームを作り、エンターテインメントとしての面白さの中に真面目な医療の要素を混ぜることにしました。
腸内細菌を中心にキャラクター化したソーシャルゲームなので、「うんこ」とキャラクターを「コレクション」するという設定から「うんコレ」と名付けました。大きい特徴は「課金の代わりに、うんこの報告をする」ことです。
課金とは一般的に、ゲーム内でお金を払って強いキャラクターやアイテムを手に入れることで、強い敵を撃破できるなどスムーズに先に進めるようになります。「うんコレ」の場合は、課金の代わりに、排便の情報を入力することで、キャラクターなどを獲得できるようになっています。毎日の排便報告の中で、快便のためのアドバイスが出てきたり、病気の可能性がある排便状態が確認された場合にはアラートが通知されたりする仕組みになっています。
プレーヤーは、トイレの向こう側の世界「ウントピア」を守るために、腸内細菌をモチーフとしたキャラクターを操ることで、「クリーブス」と呼ばれる敵を撃破する設定です。クリーブスの目的が何なのか、ウントピアとは何なのかは、ゲームをプレーしてからのお楽しみです。
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日本がん分子標的治療学会に来ています。
古典的な転移だけでなく、糖鎖シグナルや微小成分による転移やそこからのさらなる分化や耐性の可能性の有無を、ゲノム解析から推定していけるかもしれないと言うことです。
言い換えれば、今のガイドラインにしたがった、がんの個数やサイズ、転移部位に従った集学的治療と異なる治療戦略も考えられると言うことです。
いずれにせよ、がんや疑い病変をスクリーニングで引っ掛けるところから始まりますし、そのためには興味を持ってもらって、知ってもらうところからですね。
その中で、消化器外科とか消化器内科は中心ではありますが、それ以上に沢山いる他科医やかかりつけ医も効率的に運用するシステムを考えていきたいものです。
もちろん、大腸がんだけががんではないですし、大腸がんには転移もあり、癌だけが人を殺すわけではありませんから。
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