心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」
医療・健康・介護のコラム
叱った女性部下が辞め、不眠に陥った32歳男性 自殺した妹の面影が…
「最近、よく眠れないんです」
外来を受診したQ雄さんは、体調を聞かれてそう答えた。IT系の会社に勤務する、32歳の男性。「睡眠障害」の診断で通院治療となった。
彼の会社はその頃、典型的な「ブラック企業」だった。「長い時間働く」ことが美徳で、残業に次ぐ残業。24時、25時までの勤務は当たり前。男性社員はソファで寝て、女性社員は終電かタクシーで帰宅。それが当然とされていた。
Q雄さんは、30歳になる頃から体調不良を自覚するようになった。寝ようと思っても、目がさえて寝つけない。夜中に何度も目が覚める。昼間はボーッとした状態が続き、仕事の効率は低下。ミスが増えた。
「最近、新たなプロジェクトの責任者になりました。若手の育成や、トラブル対応に追われていると、 動悸 や頭痛、めまいがひどくなる。体調は最悪です」
と、Q雄さんは語る。

イラスト:奥山裕美
「寝不足」でも「寝過ぎ」でも寿命は短く
「睡眠障害」は、「万病のもと」である。「寝不足」でも「寝過ぎ」でも寿命は短くなる。自律神経失調や動脈硬化から、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの病気を起こしやすくなるのだ。6~7時間台の睡眠が、最も長命につながるとされている。
睡眠障害はうつ病とも関係が深い。長時間労働の末の過労死や過労自殺も、「働き過ぎ」より、そのために起きる「寝不足」の方が危険なのではないか、と言われるほどだ。
Q雄さんには、まず眠るための「条件」を整えてもらった。毎日、同じ時刻にベッドに入る。体は十分に温める。夕食は早めに取り、遅い時間の飲酒やゲームは避ける。スマホもブルーライトをカットして、寝る前は見ない……。
その上で、軽い睡眠導入剤を試してみることにした。こうしたケースでは、ベンゾジアゼピン系の薬がよく使われるが、依存性があることを考えて、Q雄さんには、オレキシン受容体 拮抗 剤、メラトニン受容体作動薬などを処方した。
不眠がまた悪化 そのわけは…
「おかげさまでだいぶ眠れるようになりました」という報告が返ってきたのは、2か月後のことだった。しかし、それから半年後、また睡眠障害が悪化した。
「最近、薬が効かなくなりました。毎晩、いろいろ考え込んでしまって、全然眠れないんです」
最近の「働き方改革」のおかげで、会社の方針が変わったという。会社が法的な規制を恐れ、長時間労働を禁止したのだ。もちろん「仕事の持ち帰り」もあり、そんなに楽になったわけではない。それでも、何とか20時までには帰宅できるようになった。
「夜の時間が増えたら、逆にいろいろ悩むようになりました。先日も大きなミスをした部下を叱ったら、落ち込んで会社に来なくなり、自分でもどうしていいかわからないんです……」
私は、そんな彼のメンタリティーが気になって、生育歴を聞いた。
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