渡辺専門委員の「しあわせの歯科医療」
医療・健康・介護のコラム
入れ歯はどうして合わないのか?
歯の型がきちんと取れていないことも
さらに歯科技工士からはこんなぼやきも聞こえてきます。「こちらに届いた『印象』(型)がちゃんとしていればいいんですが、ひずんでいたり、歯茎の奥の方がきちんととれていなかったりすることもあるんです。私たちは型を基に作りますから、これじゃピタリと合う入れ歯は作れませんよ」
歯科技工士は、歯科医から見れば下請け。「先生、『印象』がゆがんでいるので取り直してください」とは言いにくい立場です。口の中に入れても大きな問題を招かないよう工夫をして入れ歯を作って歯科医の元に送ることになりますが、いい入れ歯にはなりにくいでしょう。歯科技工士たちの話を聞いていると、型がきちんと取れていないケースは珍しいことではないようです。
歯の型がきちんと取れていない、入れ歯の設計がよくわからない、丁寧な調整をしない――入れ歯作りの3本柱のどこかに不十分なところがあると、患者が快適な入れ歯を手に入れるのは難しいかもしれません。
咀嚼能力検査をすれば、入れ歯でかめているかどうかわかる
実は保険には、入れ歯でちゃんとかめているかどうか調べる検査(1400円、患者負担3割)があります。グミを20秒間かんで溶け出した糖の量を計測します。検査の結果、あまりかめていないことがわかったら対応が必要になるので、歯科医にとっては厄介な検査かもしれません。逆にこの検査で確かめようという歯科医は、治療に責任感を持っているということでしょう。先ほど紹介した名人は、 咀嚼 能力検査をやって、入れ歯の出来栄えを確かめていました。
うまくかめていないと感じている人は、歯科で検査を受けてみてはいかがでしょうか。
入れ歯に「満足」は45%
国民生活センターが今年1月に実施したインターネット調査によると、歯を失った時の治療の満足度は、インプラントが85%と最も高く、次がブリッジ60%、入れ歯は45%と半分以下でした。入れ歯は異物感があるだけに、一段下がるのはいたしかたがない面もありますが、“人生後半の友”への満足度としては残念な数字です。
入れ歯はできたら終わりではなく、使い慣れることと、歯科でのていねいな調整、定期受診によるメンテナンスが肝心と理解しておきたいですね。そして患者としては入れ歯に熱意のある歯科医を見つけたいところです。
日本補綴歯科学会は 専門医制度 を設けて名簿を公開しています。以前、読売新聞でこの学会の専門医制度を紹介したところ、大きな反響があり、「おかげで合う入れ歯ができた」という喜びの声が届きましたが、一方で「期待はずれだった」という声も。患者の口の状態や期待値、歯科医の診療方針もそれぞれで、みんなが満足というわけにはいかないかもしれませんが、少なくとも、この分野で経験のある歯科医の集団であることは確か。もし困っているなら、歯科医選びの検討材料のひとつと考えてください。
(渡辺勝敏 読売新聞記者)
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