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入れ歯はどうして合わないのか?
入れ歯作りは、2、3回の通院では終わらない
「入れ歯作りは2、3回通って終わりではないことを、患者さんに理解していただきたい」と言うのは、日本補綴歯科学会副理事長で日本歯科大教授の志賀博さん=写真=です。「口の動きを見ながら、個人トレイを作ってていねいに型を取る。それをもとに模型でかみ合わせを確かめて入れ歯を作る。それでも口に入れると当たるところが出たりするので、口の動きに合わせた調整が必要」と言います。
そのうえで、「新しい入れ歯はどうしても違和感が出るので、なれるには2か月ぐらいかかります。当初1か月は毎週のように調整が必要で、その後も歯茎の状態は変化するので、3か月に1度ぐらいは調整のために受診していただきたい」と志賀さんは話しています。お口の掃除や歯周病の管理に定期受診は欠かせませんが、入れ歯を快適に使うにも定期受診による管理が必要ということでした。
調整の診療報酬は低く、患者は何度も通うのは面倒
大学では入れ歯作りや管理についてこのように教育しているそうですが、多くの開業歯科医の感覚とはズレがありそうです。
「型、かみ合わせ、調整の三つがきちんとできていないと、いい入れ歯はできません。でも、患者さんは何度も通うのを嫌がるし、調整は時間がかかる割に収入になりません。完成したら、『入れ歯はこんなもんですよ』と言って、合わせて終わり。何か不都合があれば来てもらうという感じですね」とベテラン歯科医は話していました。
そしてこうも言います。「何度も調整をやっている先生は熱意があるんでしょうけど、保険だと入れ歯自体の報酬も高くはないし、調整は時間がかかる割に報酬が低い。自費の場合だって手間のかかる調整は手早く終わらせたいですよ」
保険には、「新製有床義歯管理料」2100円前後(装着月1回のみ請求可、患者負担は3割)や「歯科 口腔 リハビリテーション料」1140円前後(月1回、同)など入れ歯の調整に関連する項目があります。
開業歯科医の本音はこうなのかもしれません。かくして、それなりに合う入れ歯ができた人はハッピーですが、今ひとつ合わない人は、諦めを感じつつ何度も作り直し、入れ歯安定剤をたっぷり使ってごまかしながら使うことになりそうです。
入れ歯の設計は、歯科技工士に丸投げ
入れ歯作りの現場を見てみようと歯科技工所を訪れると、入れ歯の現実がもう少しよく見えてきました。入れ歯の設計図は、技工指示書という書面で歯科医が歯科技工士に示すことになっています。残っている歯の本数やかみ合わせは人それぞれなので、土台をどのような形にして、固定する金属をどこに引っ掛けるかといった判断は難しそうです。ところが、歯科医から送られてきた技工指示書の束を見せてもらうと、中には留意点が書かれたものもありますが、何も書かれていないものがほとんどなのです。
「どういうことですか?」と歯科技工士に尋ねると、「歯科医は歯型を送ってくるだけで、入れ歯の設計は歯科技巧士に丸投げなんですよ」。
「『印象』(歯の型のこと)を見ると、この臼歯は歯茎が下がっているから、ここに金具をかけると歯が傷んでしまうので、ほかの歯で支えるようにしなきゃ……」などと歯科技工士がデザインに知恵を絞っていました。
入れ歯には経験が問われる
前出のベテラン歯科医は、「歯科技工士たちはよくわかっているから、歯型を見れば、どういう形がいいか考えて上手に作ってくれますよ。信頼できる技工士と付き合っていれば大丈夫」と話しています。これが入れ歯作りの実際のようです。
それで問題はないのでしょうか。
こんな歯科医と会いました。開業して13年の中堅の歯科医は、「今まで型を取って送るだけで、技工士さん任せでした。でも、自分で設計ができないと、技工士さんに的確な指示ができないし、なぜこういう形になっているか患者さんにも説明できませんから」と、一念発起して歯科技工士が主催する入れ歯設計の講習会に参加して勉強したそうです。
開業歯科医のほとんどは、一般歯科として、虫歯の治療から歯周病の管理、入れ歯作りまで行っています。しかし現実には、分野によって得手、不得手があります。入れ歯は経験が問われる要素も多く、意欲や経験のある歯科医でないと、歯科技工士任せになってしまうのかもしれません。
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